「温泉旅行に行くと税金が戻る」、そんなことを聞いて「本当?」と首をかしげる人もいるでしょう。しかし、実は本当のことです。

所定の温泉に所定の手続きを踏んで申請をすれば、税金が返ってきます。今回はこのあまり知られていない節税方法について紹介します。

  • 温泉に入ると、税金が戻るって本当?(画像はイメージ)

医療としての「温泉」

仕組みとしては簡単です。温泉にかかった費用を医療費とみなして確定申告時に申請をして、年10万円の医療費控除の枠を利用します。そうすれば、温泉療養のための施設利用料や交通費などが所得から控除されるというわけです。

日本では、戦国時代に合戦で傷を追った武士や大名、江戸時代に身体を患った庶民などが温泉地で治療を行う湯治が盛んでした。この医療費控除は、さながら現代版の湯治といえるかもしれません。ちなみにこの制度は、1990年から適用されており、実は20年近く前からある制度なのです。

ただし、あくまで「温泉」が「医療」の1つという扱いになるので、それを受けられる温泉は限られています。具体的には、厚生労働大臣が認定した「温泉利用型健康増進施設」のみとなります。

この温泉利用型健康増進施設は、以下の様な条件を満たした施設のことです。

■温泉利用型健康増進施設とは
(1) 温泉を利用した各種の入浴設備と運動設備が総合的に整備されている
(運動施設:トレーニングジム・プールなど、入浴施設:かぶり湯、寝湯、気泡浴、ミストサウナなど)
(2) 温泉利用指導者資格を持ったスタッフが、医師が作成した温泉療養指示書に従って入浴指導を行なう
(3) 安全管理や応急処置、生活指導全般を行なう
(4) 温泉療法の知識・経験を有する医師のいる医療機関と提携している

要するに、運動施設と入浴施設が混合したスパに、専門のスタッフが常駐している施設ということになります。これらの条件を満たした施設が、厚生労働大臣によって認定されているのです。なお、温泉利用指導者資格とは、一般社団法人日本健康開発財団によって認定されている資格で、8日間の実習を受けた者がなることができます。

認定施設は昨年10月時点で21カ所

認定施設は平成29年10月25日時点で21カ所。一覧は厚生労働省のサイトで閲覧できます。

では、具体的に見てみましょう。例えば神奈川県の「江の島アイランドスパ」には、天然温泉やエステはもちろんのこと、室内運動場やウォーキング&ランニング指導プログラム、ヘルスケアクリニックなども完備されており、温泉に入りながら健康増進に向けたプログラムを利用することができます。さらに江の島という観光地からほど近いので、温泉療養をしながら観光も楽しむことができるという一石二鳥の施設です。

ただし、ただ温泉に行ったというだけでは、医療費控除の対象にはなりません。医療費控除の対象となるためにはいくつか条件があり、その施設利用はおおよそ1カ月の間に7日以上でなければならないとも定められています。つまり1カ月の間に1週間以上温泉利用型健康増進施設で温泉療養をする必要があるのです。間が空いても手続きさえ踏めば可能なので、例えば1カ月の間、毎週末の土日に週末だけ温泉療養に出かけるといった利用方法も可能です。

必要な手続きは?

このような温泉に関わる医療費控除ですが、税金に関わることなので、もちろんきちんとした手続きも必要になります。

■必要な手続き
(1) 医師を訪ね、相談する
かかりつけ医や、そこから紹介された温泉療法医などを尋ねる。なお、認定施設に相談すれば、提携している病院から専門医を紹介してくれるところもある。
(2) 温泉療養指示書を受け取る
温泉療養指示書とは、どのように温泉入浴をすれば良いか等の指示が載った書類のことで、医師が診察してオーダーメイドで作成してくれる。
(3) 認定施設を訪れる
その指示書を持参し、認定施設に行く。
(4) 認定施設で温泉療養を行う
温泉利用指導者の指導のもと、療養を行う。
(5) 認定施設で領収書などを受け取る
療養終了後、施設から領収書と温泉療養証明書を受け取り、保管しておく。
(6) 確定申告をする

といった手順で手続きをしなければなりません。基本的には、医師や認定施設に相談して、その指示に従いながらゆっくりと療養をすればいいということになります。

以上のような手続きを踏めば、この温泉療養にかかった施設利用料や交通費などの費用が医療費から控除されます。1カ月のうち7日間以上の利用で、さらに認定された温泉利用型健康増進施設でしか控除の対象にはならないという若干ハードルの高いことではありますが、ゆっくりと温泉を楽しみ、身も心もリフレッシュした上で税金が戻ってくるというのは、やはりおいしい話といえるでしょう。

そもそもこのような制度が創設されたのは、このような健康増進施設を積極的に国民に利用してもらうことで、国民の健康づくりを支援し、結果的に慢性疾患などの予防につなげようといった狙いがあるのです。今後も温泉利用型健康増進施設は増えていくことでしょう。さまざまなテクノロジーによって医療分野は発展してきていますが、このような昔から受け継がれている療養方法こそが、人々の健康に役立つのかもしれません。ちょっとした話のタネにもなりそうな「温泉に行って節税する」方法、ぜひみなさんも利用してみてください。

  • 回遊舎

回遊舎

"金融"を専門とする編集・制作プロダクション。お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」「J-REIT金メダル投資術」、「NISA120%活用術」、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」、「子育てで破産しないためのお金の本」など。