日本の漫画・アニメが世界中の人々を魅了するようになって久しい。海外の本屋で『ワンピース』が全巻そろって売られているという光景も、さほど珍しいことではなくなっているようだ。そんな日本の漫画の原点とも言えるのが、昭和の漫画家たち。彼らがかけだし時代を過ごしたのは、言わずと知れた「トキワ荘」だ。そのゆかりの地をゆるゆると巡りつつ、食べ歩きグルメを探してみた。

トキワ荘ゆかりの地では、案内まで昭和風

今もなんだか昭和っぽい!? 椎名町~落合南長崎

現在は平成29(2017)年。昭和というと、もしかしたら一片の思い出すらない読者も中にはいるかもしれない。しかし、それでも世代を超えて共通の話題となりうるものは存在する。そのひとつが、昭和から現在まで読み続けられている漫画だ。

手塚治虫、寺田ヒロオ、藤子不二雄A、藤子・F・不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など、現在でも名の知られている「漫画界の巨匠」たちは、若かりし頃、木造2階建のアパート「トキワ荘」に住んでいた。老朽化のためトキワ荘は取り壊されてしまったが、彼らが日常を暮らしていたのが西武池袋線「椎名町」駅~都営大江戸線「落合南長崎」駅の一帯である(東京都豊島区)。

椎名町駅から続く山手通りは、いかにも新しく整然とした雰囲気だ。しかし、ひとたびトキワ荘方面へ足を踏み入れると、自転車がやっと通れるほどの細い路地が入り組んで続いている。今となってはトキワ荘も当時の建物もほとんど残されていないものの、それらの路地に迷い込むと近所のテレビの音といった生活音が聞こえてくる。人と人の距離が近かった昭和の面影が、今もあるように思えた。

街は全体的に新しくなりつつあるが、昭和時代の面影を残す路地や建築もちらほら

意外と巡りがいあり! 宝探し的トキワ荘ゆかりの地

この地を歩いてみようと思ったら、まずは駅などで「トキワ荘ゆかりの地 散策マップ」を手に入れたい。そこにはトキワ荘のあった位置だけでなく、漫画家たちが当時通っていた映画館や銭湯、数々のモニュメントも記されている。

それぞれ建物は残されておらず、区民館や会社、はたまた普通の家となってしまっている場合もあるのだが、「トキワ荘ゆかりの地解説板」という看板が塀などに取り付けてあるため、正確な位置を確認することができる。「なるほど、ここにあったのか」と、想像力を働かせてしみじみしてほしい。

漫画家たちが通った銭湯「あけぼの湯跡」の解説板。現在は区民館になっている

「トキワ荘跡地はコチラ」

さらには不意に、昔懐かしい小学校の机がポンと置かれているのを見つけることができるだろう。それらは"ゆかりのスポット"に設置してあるスタンプ押印用の机である。いわゆる「スタンプラリー」なのだが、意外とかわいらしいのでぜひ押してみよう。

歩道に突如、机!?

古風でかわいいスタンプ。筆者は持ち合わせの紙に押していたが、のちに机の中にスタンプ用紙とマップを発見。マップにはスポットの説明も書かれているため入手したい

トキワ荘跡はニコニコ商店街にあり!

マップで「トキワ荘通り」と記されているところは、「ニコニコ商店街」という、何とも愛らしい名前の商店街である。現在、ニコニコ商店街は相当ひっそりとしているが、トキワ荘時代は小さな商店がずらりと並び、付近には映画館も2~3軒あって非常に賑やかだったという。

現在、トキワ荘があったところは出版社となり、その一角にモニュメントが置かれている。「若手が住んだアパート」というと、ボロアパートかと思うかもしれない。しかし、実は新築だったそうだ。

今も昭和的なニコニコ商店街。この道を漫画家たちも歩いたのだろうか

「トキワ荘跡地モニュメント」

イラストも描かれている

トキワ荘間取り図。それぞれ4.5畳に区切られ、風呂なし、トイレ・キッチン共同。風呂なしを除けば、最近人気の「シェアハウス」と似たものがあるかもしれない

漫画閲覧無料!? 「豊島区トキワ荘通りお休み処」

2013年に開設した「豊島区トキワ荘通りお休み処」では、漫画家たちのサインや、トキワ荘に住んでいた寺田ヒロオ氏の部屋の再現、内部まで細かく作られたトキワ荘の1/50模型などが展示されている。さらに、トキワ荘ゆかりの漫画家の漫画作品が豊富にあり、閲覧自由となっている。また、館内の係員からトキワ荘のストーリーや漫画家たちの関係など詳しい説明をしてもらうことができ、お土産も買える。

「豊島区トキワ荘通りお休み処」築昭和元(1926)年の建物を改装したもので、当時は米の配給所だった。「漫画は大人が読みに来るほか、『ドラえもん』を目当てに訪れる子供も多い」とのこと

「チューダー」って何!?

若手漫画家たちも宴会をした。そこでよく飲まれていたのが、兄貴分だった寺田ヒロオ氏が発明した「チューダー」だったという。チューダーとは、焼酎のサイダー割りのこと。それを飴にした「チューダーあめ」(100円)は、トキワ荘ゆかりグッズの代表格だ。……というよりも、トキワ荘ゆかりのお菓子はこれしかない。

目白通りにある昔ながらの商店「フードショップ埼玉屋」で見つけたチューダーあめ(100円)。豊島区トキワ荘通りお休み処でも販売されている。ちなみに当時、サイダーは「シャンペンサイダー」という洒落た名前だったそうだ

information
フードショップ埼玉屋
東京都豊島区南長崎2-1-4

かわいすぎて困る「うさぎスイーツ」

トキワ荘とは全く関係ないのだが、道中、女子の心をくすぐるかわいすぎるスイーツを発見した。"かわいいケーキの店"「bilson rollers(ビルソンローラーズ)」は、まさにかわいいスイーツ満載の店だ。

特に注目したのは「やわらかうさぎ」(430円)。イチゴムースがもちもちしたピンク色の求肥(ぎゅうひ)に包まれ、耳もイチゴチョコ。しかも表情が個々に違っているという凝りようだ。このほか、チョコムースのクマ型もある。

「やわらかうさぎ」(430円)。食べるのがかわいそうになって困る

information
bilson rollers(ビルソンローラーズ)
東京都豊島区南長崎2-1-2

これは外せない! トキワ荘ゆかりのラーメン

最近では高級なラーメンも多数登場しているものの、ラーメンは昔から、安くてお手軽な「お金のない学生の味方」のような存在だった。貧乏生活をしていたトキワ荘の住人たちにも、大切な栄養源だっただろう。

ニコニコ商店街にある「松葉」は、数々の漫画の中にも登場する中華料理店。しかも、ラーメンは一杯500円という低価格だ。このほかメニューには、「トキワ荘ラーメンライス」(700円)、そして「チューダー」(350円)も飲める。

漫画ファンは散策の最後に「松葉」のラーメンを食べてから帰ることが多いとのこと

松葉が登場する漫画が貼られている。店内にもサインが多数

元祖ラーメン的なラーメン(500円)

information
松葉
東京都豊島区南長崎3-4-11

2020年、トキワ荘完全復元を予定!!

ニコニコ商店街の一角にある「南長崎花咲公園」には「トキワ荘のヒーローたち」という記念碑が建てられている。これまたトキワ荘の模型と、漫画家たちの似顔絵にサインが刻まれている。

「トキワ荘に近い公園だから」ということで設置されたとのことだが、なんと2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、ここに実寸大のトキワ荘を復元予定だという。お休み処の方によると「豊島区長が建設を約束した」とのことで、期待が持てそうだ。しかし、まだ内部にそれぞれの漫画家の部屋が再現されるかどうかは決まっていないとのことだ。

南長崎花咲公園の記念碑「トキワ荘のヒーローたち」

またもや精巧なトキワ荘の模型

手塚治虫氏がトキワ荘の次に住んでいたのが雑司が谷(豊島区)の「並木ハウス」。「荒川線や手塚先生の街をゆく--江戸庶民気分で『雑司が谷・鬼子母神堂』巡り」にて紹介しているので、あわせてぜひご参考に!

※価格は全て税込

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。