自分が勤めている会社で財形貯蓄を利用している会社員の方はたくさんいるでしょう。では、もしも自分が将来会社を転職した場合、現在の財形貯蓄はどうなってしまうのでしょうか? つい見落としがちな財形貯蓄の仕組みをおさらいしながら、転職後の財形貯蓄の行方について解説していきます。

転職したら「財形貯蓄」はどうなる?(画像はイメージ)

会社員の積立の基本・財形貯蓄とは?

財形制度は企業の社員に対する福利厚生制度の一つで、企業が社員の給料やボーナスから一定額を天引きしそれを提携している金融機関に貯蓄してくれる、という制度です。したがって、財形制度を導入していない会社の社員は対象外になります。

財形貯蓄には次の3種類があります。

1.財形住宅貯蓄
マイホームの建設・購入・リフォームなど、住宅資金のための財形貯蓄です。非課税措置があります。
2.財形年金貯蓄
60歳以降に年金として受け取るための老後の資金づくりを目的とした財形貯蓄です。非課税措置があります。
3.一般財形貯蓄
使用目的は限定せず、用途を自由に選ぶことのできる財形貯蓄です。非課税措置はありません。

財形貯蓄を利用するメリットですが、ここでは代表的な二つを紹介したいと思います。一つは財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄に対する税制面でのメリットです。それぞれ元本550万円まで、保険商品を選ぶ際は385万円まで、財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄の両方を利用する場合は合計550万円までにかかる利子が非課税になります。

もう一つは財形持家転貸融資が利用できるという点です。これは、財形貯蓄加入者が財形貯蓄の残高に応じた融資を長期・低利で受け取れる住宅ローン制度です。条件として、いずれかの財形貯蓄の1年以上の継続、申し込み前2年以内に財形貯蓄の預け入れ、融資の申し込み時点で50万円以上財形貯蓄の残高があること、勤務先から負担軽減措置が受けられること、申込日現在70歳未満、完済年齢時が80歳未満の方である必要があります。審査が通れば、最大4,000万円まで受け取れる財形貯蓄の残高の10倍か購入などに必要な費用の90%のいずれか低い方の金額が融資限度額となります。

このように、財形貯蓄は様々な種類があると同時に色々なメリットがあります。会社員側は会社経由で申し込むだけで将来の夢や家族の大切なときに必要なお金を強制的に貯蓄することができます。お給料を受け取る前に「天引き」という形で積立額がお給料から引かれてしまうので、貯金がうまくできないという方でも自然とお金を貯めることができます。会社に制度があるなら、自分の貯蓄する目的を決めて、賢く利用するといいでしょう。

転職しても財形貯蓄は継続できるのか?

また財形貯蓄は、転職先に制度があり、退職から2年以内に手続きを行えば、非課税のメリットを保ったまま貯蓄をそのまま移転することができます。転職先に財形貯蓄の制度がない場合は、解約をして払い出しをしなければなりません。ただし、積み立ててきた資産を払い出すことになり、住宅取得の目的外の解約とみなされ利子に対して過去5年分の課税が行われることに注意してください。

ここで気を付けたいのが積立継続の手続きです。以前の金融機関で継続できるかできないかによって手続きが異なります。転職前の会社と同じ金融機関で継続できる場合は、転職先の会社を経由して、「勤務先異動申告書」を金融機関に提出することで積立の継続ができます。一方、金融機関を変更しなければならない場合は、新勤務先の指定の金融機関と財形貯蓄契約を結び、以前の金融機関から預け替えることで積立の継続ができます。

財形持家転貸融資を受けたけれど会社を辞めてしまったらどうなるの?

会社によって取り扱いが違うのが、財形持家転貸融資を受けていた場合です。財形持家転貸融資は勤めている会社の融資制度を利用した形なので、会社を変わるということになれば、最悪の場合残債務を一括返済しなければいけない場合もあります。しかし、残債務の全額返済の規定があったとしても、会社がローン返済を認めた場合は以下のいずれかの方法でローン返済を継続することができます。

・会社がそのまま返済を継続する方法
・会社が機構に負う債務を社員の方が返済を引き継ぐ方法(債務引受)
・会社が機構に負う債務を転職先の会社が引き継ぐ方法(債務引受)

ただし、債務引受は機構の承認が必要で、審査により不承認になる可能性もあります。

債務引受の申請時には、前もって会社の福利厚生担当者から財形持家転貸融資業務取扱店へ問い合わせる必要があります。

給与天引きで先取り貯蓄ができる財形は、会社員で利用できる環境にあるなら、是非利用したい制度の一つです。転職するターニングポイントに慌てないためにも、事前にルールをしっかり把握しておきましょう。

※画像は本文とは関係ありません。

株式会社回遊舎


"金融"を専門とする編集・制作プロダクション。お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」「J-REIT金メダル投資術」、「NISA120%活用術」、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」、「子育てで破産しないためのお金の本」など。