厚生労働省が緊急提言

2017年4月には、医療事故のニュースをはじめ、無痛分娩に関する報道が続きました。その一つが、厚生労働省の研究班が2016年4月までの7年間に報告された妊産婦の死亡例298人を分析したところ、うち13人は無痛分娩だったというものです。このデータに基づき、研究班は「緊急時に対応できるよう、十分な医療体制を整えるよう求める」と緊急提言を行っています。

実際に死亡した人がいるというニュースを見聞きすると、「無痛分娩は危険だから出産するときは自然分娩にしよう」と思う女性も多いでしょう。しかし、上記のデータを細かく見てみると、13人の無痛分娩の死亡例は、死亡例全体の約4%。日本の無痛分娩の割合は、2008年の厚生労働省の調査では2.6%とされていますが、現在ではさらに増えていると言われています。

これらの数字を見る限り、無痛分娩での死亡率が自然分娩に比べて明らかに高いとは言えません。それに、自然分娩であっても、出産中の事故やトラブルで死亡するリスクはあります。

ただし、麻酔を使う以上、無痛分娩には自然分娩にはないリスクが伴うのも確かです。そのため無痛分娩には、高度な技術と専門知識が必要とされます。厚生労働省の研究班が提言している通り、トラブルがあったときに対応できるよう施設側が技術と体制を整えることは重要です。

日本では無痛分娩がそれほど普及していないため、無痛分娩の経験が豊富な麻酔医や産科医は多くはありません。無痛分娩を考えている人は、そのメリットとデメリットをしっかり知った上で、無痛分娩に対する体制が十分に整った産科施設を選ぶようにしましょう。 また、無痛分娩を行う場合には、担当の医師が妊婦さんの体の状態や既往歴を事前にしっかり把握し、安全に麻酔処置ができるよう準備する必要があります。できれば妊娠初期の検診の際など、早い段階で「無痛分娩を希望する」という意志を担当医師に伝えるようにしてください。

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記事監修: 鈴木俊治 医師

葛飾赤十字産院 副院長
日本産婦人科医会 副幹事長
1988年長崎大学医学部卒業、日本医科大学付属病院産科婦人科学教室入局、葛飾赤十字産院産婦人科派遣をへて米国ロマリンダ大学胎児生理学教室へ研究留学。帰国後、日本医科大学産科婦人科学講師、学助教授、東京臨海病院産婦人科部長を経て、現在は葛飾赤十字産院にて副院長を務める。