妊娠初期には、多くの人が「つわり」を体験する。それは不快ながらも正常なもので、ある時期が過ぎれば自然に落ち着いてくる。しかし、妊娠中期~後期にも吐き気や食欲不振などが起こり、「またつわり!? 」と思っている人もいるのではないだろうか。実は、それにはつわりとは別の原因があるという。順天堂大学医学部附属練馬病院産婦人科長の荻島大貴先生に話をうかがった。

妊娠中期~後期の吐き気は、つわりとは別の理由がある

もしかしたら病気の初期症状かも?

実際、妊娠初期に吐き気などを催すのは自然なこと。妊婦さんのうち、50~80%が経験するとされている。通常、そのようなつわりは妊娠15週あたりに治るのだが、どういうわけか妊娠中期(16~27週)から妊娠後期(28週~)にも同様の症状が現れることがある。荻島先生によると、「それはつわりではありません」とのこと。では、一体何なのだろうか。

妊娠中期以降のつわりに似た症状には、いくつかの原因が考えられる。物理的な問題や、時には病気のサインのこともあると、荻島先生は言う。

まずひとつは、赤ちゃんが育ってきたことによる胃への直接的な圧迫だ。赤ちゃんは、当然ながらお母さんの身体の中で成長しているわけで、大きくなるにつれて内臓を押してしまうことがある。それがもし胃であれば、食べものが入らなかったり、吐いてしまったりすることがある。そんな時に荻島先生は、「いっぺんに食べるのではなく、ちょこちょこ食べるようにしましょう」とアドバイスするという。

胃痛は特に注意が必要

また、胃が痛い場合にはもう少し注意した方がよさそうだ。胃痛は「妊娠高血圧症候群」の初期症状であるかもしれない。

妊娠高血圧症候群とは、一般に言われる妊娠中毒症のことで、通常なら赤ちゃんのために増加させた血液をスムーズに流すようにお母さんの血管が拡張するはずが、うまくいかなくなってしまうものだ。そうすると、高血圧や蛋白尿、頭痛などの症状が出る。悪化すると子宮内胎児発育不全や、子癇(しかん)という母子ともに命の危険がある状態になりうる。

妊娠高血圧症候群では血行障害のため、様々な臓器の血管が攣縮(れんしゅく/一時的に細くなる)することがある。「それが胃の血管に起こると粘膜障害となり、胃痛として現れる場合があります」と荻島先生は言う。妊娠中期~後期でこのような症状があった場合は産婦人科医と相談し、病気が潜んでいないかを調べることが大切だ。

心理的な不調がある場合も

しかし、病院で検査をしても身体的な不具合が見つからないこともある。「そんな時は、もしかしたらうつ病などが隠れている可能性もあります」と、荻島先生は言う。

心理的ストレスが一因となっているケースも

うつ病に限らず、食べても吐いてしまう、いわゆる「食べ吐き」のような状態を自分から医師に相談しづらい妊婦さんもいるそうで、医師は母子手帳に書かれている体重の変化などを見て具合をたずねることもあるという。先生は、「必要であれば、栄養士など、それぞれの分野の専門家を紹介して一緒に妊婦さんを支えていきます。それが現在の医療です」と話す。

おなかの赤ちゃんにとって、お母さんからの栄養はとても重要だ。荻島先生の話では、低栄養のお母さんからうまれた赤ちゃんは、将来的に糖尿病や高血圧症などになる確率が高くなると言われているとのこと。「つわりだろうからそのうち治る」「医師に相談してもいいのかな」とひとりで抱えず、まずは話をしてみることが大事だ。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

監修者プロフィール: 荻島 大貴

1994年順天堂大学医学部卒業、2000年同大学大学院卒業。現職 順天堂大学医学部付属練馬病院 産科婦人科診療科長・先任准教授。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医・指導医・評議委員、日本がん治療認定機構がん治療認定医、日本周産期・新生児学会周産期専門医、母体保護法指定医。練馬区を中心として城西地区の婦人科がんの診療と周産期医療を行っている。

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスにつづったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。