「イタリアのお酒」と聞いてイメージするのは、やはり「ワイン」だろうか。確かに、イタリアは2016年のワイン生産量世界No.1ということもあり、ワイン大国であることは間違いない。そのあまりに偉大なワインの影で、実はヨーロッパのクラフトビール大国であることはあまり知られていないようだ。そのイタリアクラフトビール界に君臨するカリスマ、テオ・ムッソ氏がこのほど、日本に初来日した。

イタリアのクラフトビール界にテオ・ムッソ氏あり

長いパイプで法律をかいくぐるファンキーさ

イタリアクラフトビールの歩みは、日本のクラフトビール(当時は「地ビール」と呼ばれていた)とほぼ重なり、90年代半ばが夜明けである。今は日本でもクラフトビールは大人気だが、ブルワリーの数は250前後。対してイタリアは800を有に超えている。

その先駆者とも言えるのが、今回初来日した、バラデン社のテオ・ムッソ氏である。その名前のイメージとカリスマと崇められている人物ゆえ、勝手ながら"カチン"とした人を想像していたのだが会って砕けた。言うことやること全てがファンキーなアニキだったのである。

言うことやること全てがファンキー

高級ワイン、バローロを産する北イタリアの小さなピオッツァ村に生まれ育ったテオ青年は、ワインではなくビールと音楽をこよなく愛し、31年前に地元でビアパブを開いた。そのビール愛はビアパブ経営だけでは済まなくなり、ベルギーでビール造りを学び、1996年、母の実家である養鶏場を改装してブルワリーを開設するに至る。

「醸造所はビアパブに直結していなければならない」というイタリアの法律を、元養鶏場のブルワリーから400m離れたビアパブまでを長いパイプで直結させてビールを提供することで、まんまとかいくぐった。今ではイタリア全土に15カ所ある「オープンバラデン(バラデン直営ビアパブ)」の元祖は、こうして始まったのである。

ネーミングだってファンキー

オリジナリティあふれるビールのラベルに書かれているネーミングも、全くもって個人的。例えば、「イザック」は息子の名前、「ワイヤン」「ソライア」は娘の名前、「シャウユー」にいたっては娘の夢に出てきたキャラクターだ。

全てをイタリア産だけで造った「ナチオナーレ(Nazionale)」

ファミリーの情報公開オンパレードだが、中にはそのビールのオリジナリティーを象徴したネーミングもある。「ナチオナーレ(Nazionale)」は英語ではナショナル。文字通り、原料の全てをイタリア産でまかなっている。ホップは自社畑のものである。

また、全てのビールにおいて「食事との相性」を念頭に造ることがポリシーで、コショウなどのスパイスやハーブを巧みに使い分け、食事に寄り添ったアクセントを演出している。今回の来日では、山椒に強くインスパイアされたらしい。近い将来、またひとつファンキーなビールが生まれそうな予感。そして、このビールにどんな名前がつくのか今から楽しみだ。