「ひとり目の子供はうまれたのに、ふたり目がなかなかできない……」。そんな悩みを抱える夫婦も実は少なくない。子どもは"授かりもの"とは言え、一度は自然にできたのに、どうしてできなくなってしまうことがあるのだろうか。また、その対処法はあるのだろうか。順天堂大学医学部附属練馬病院産婦人科長の荻島大貴先生にうかがった。

早くふたり目がほしいと思っても、なかなか思うようにいかないことも

不妊症と不育症の違い

ふたり目が妊娠できない、もしくは何度か流産してしまうというと、「私、不妊症になったのかも!? 」と不安に思う人もいるだろう。しかし、最初に「不妊症と不育症は別」ということを覚えておきたい。

まず、不妊症とは妊娠自体ができないことを言う。そして、不育症は妊娠はするが出産までこぎつけないことを言う。ふたり目の赤ちゃんができない場合、それぞれに原因や対処法は異なるようだ。

ふたり目から不妊になる原因とは

月経が大体、月に1度ある人の場合、妊娠のチャンスは年に12回ということになる。しかも、排卵された前後数日間という比較的ピンポイントな期間しかなく、それを外せば当然妊娠はしない。しかし、それを分かりつつ努力しているのに妊娠しないことがある。医学的には、「性交渉をしているにも関わらず、2年間妊娠しないこと」を不妊症の定義としている。

「ひとり目ができたのであれば、夫婦とも生殖が可能ということ。基本的には、物理的な問題が起こらなければ不妊にはなりません」と荻島先生は言う。その"物理的な問題"にはどのようなものがあるのかというと、「女性の場合は卵管が詰まってしまうこと、男性の場合は精子が元気ではなくなっていることなど」とのこと。

女性だけの問題ではないため、パートナーと一緒に考えることが大切

女性はクラミジアなどに感染することで、卵管が閉塞してしまうことがあるという。すると卵子は子宮までやってくることができなくなる。そして男性は、麻疹などにかかることによって男性不妊となってしまう場合もあるそうだ。男女とも、ひとり目誕生以降にそのような事態が起こると、次の妊娠ができないこともある。

卵管が詰まっているかどうかを確認するためには、造影剤と呼ばれる薬を卵管に入れて検査をする。その時に卵管の通りがよくなることがあり、妊娠できるようになる場合もあるという。何にしても、まずは原因を確認することから始まる。産婦人科で相談してみるといいだろう。

不育症でもひとり目はたまたまOKということも

「ひとり目は大丈夫だったのに、なぜその後ずっと流産が続くの!? 」と、不可解な気持ちでいっぱいになる人もいるだろう。妊娠しても流産となってしまう可能性は誰にでもあること。しかし、それが3回以上続く「習慣流産」となると、何かしらの原因があるかもしれない。本人は気付かずとも遺伝子的な疾患がある可能性や、習慣流産となる内科的病気をひとり目誕生後に発症した可能性などがそれだ。

遺伝子疾患を持つ人でも、"実は流産になりやすいのに、ひとり目は偶然にも大丈夫だった"という場合もあるという。荻島先生は、「『ロバートソン転座』などの遺伝子疾患がある場合、染色体の組み合わせの内、ほんの数種類のものしか妊娠が継続できません」と言う。

それがたまたまいい組み合わせだったためにひとり目の赤ちゃんが誕生し、それ以降は流産となってしまうこともあるようだ。そのような特定の遺伝子疾患に対しては、着床前診断が許可されているとのこと。受精卵を検査し、流産しにくいもののみを着床させるという。

また、そのほかの内科的病気には、膠原病(こうげんびょう)などの自己免疫疾患などがある。それら不育症の検査をして原因を究明し、病気の治療をすることで、妊娠継続につなげることができるようになる。

実は妊娠継続に関して何かしらのリスクをもっていたものの、ひとり目は運が良かったからという状況もある

赤ちゃんの誕生は"ピラミッド"

「妊娠の経過はピラミッド型で、その頂点が出産です。流産は妊娠を確認した後に起こることですが、その前にはたくさんの受精があり、着床があります。それらは知らない内に自然と排除されているのです」と荻島先生は話す。

妊娠がうまくいかない時、「私のせいなのでは? 」と自分を責める女性は多い。しかし、妊娠から出産にいたるまでに起こる多くのことは自然の流れのひとつでもあり、誰のせいでもない。まずは、パートナーとともに産婦人科を訪れてみてはいかがだろうか。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

監修者プロフィール: 荻島 大貴

1994年順天堂大学医学部卒業、2000年同大学大学院卒業。現職 順天堂大学医学部付属練馬病院産科婦人科診療科長・先任准教授。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医・指導医・評議委員、日本がん治療認定機構がん治療認定医、日本周産期・新生児学会周産期専門医、母体保護法指定医。練 馬区を中心として城西地区の婦人科がんの診療と周産期医療を行っている。

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスにつづったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。