行間を丁寧に拾っていった

――羽鳥さんはもともと麻耶雄嵩先生をご存知だったんですか?

いや、失礼なことなのですが、存じ上げませんでした。たまたま本屋さんで見つけて「変わったタイトルだな」と思って、読んでみたら面白くて。社内では企画書を見たミステリファンの上長から「面白いけど、これは映像化が大変じゃないか?」と言われました(笑)。

――個人的にちょうど中高生の時に新本格ミステリブームで、麻耶先生もかなり人気で影響力が強いという印象でした。

僕は勉強不足で、麻耶先生ブームがあったとは知らなかったんですよ。ミステリ界においてすごい方なんですよね。脚本を先生に見せた時は、すごくドキドキしました。原作もコミカルな部分が散見されるのですが、ベースは殺人事件なので、それを映像で見せていくにあたって、ウェットに描いちゃうと制作する方も見る方も辛くなるじゃないですか。だから全体のパッケージはファンタジーにしたいなと思ったんです。

実は原作にも、多分にファンタジックな要素が潜在しているじゃないですか。そもそも貴族という設定自体がファンタジーなので、全体をファンタジックにパッケージングしても大丈夫だろうと思っていたんですが、先生がどう思われるか、めちゃめちゃドキドキしていたんです。「面白いですね」と言ってくださって、ホッとしました。

僕たち制作スタッフは当然原作をリスペクトしているのですが、行間に散りばめられているコミカルな部分やファンタジックな要素をぐいっと引き出して、捕まえて全部映像化した感じですね。

最初はドキドキ、今は振り切る

――最初は原作を知らなかったのに、丁寧に行間を拾われていったんですね。原作の中には、映像化が難しいと言われている短編もありますが。

「こうもり」(集英社『貴族探偵』収録)ですか? ドラマにできるのか、実はまだ悩んでいます。あれはなかなか難しいですよね。なんとなく「こうやったらできるんじゃないかな」と、アイデアはあるんですが。ただ、やっぱり難しいですよね……。

――本当にそうですよね。脚本も大変そうだなと思います。

脚本家の黒岩さんはミステリを描くのがとても得意な方で、ドラマの青図ともいえるプロット作成の段階で全体の構成、特に謎解きの部分を丁寧に描いて下さるので、脚本を作る作業がすごく楽しいんです。どうやってキャラクターを動かしていくのかに集中できますから。構成や謎解きの部分がメチャクチャだと、そこからの組み直しになってしまうので、キャラクターに集中できなくなるんです。でも黒岩さんは原作に忠実に、かつドラマにするにあたってのアレンジを施したうえでプロットを作成し、脚本にしていく執筆力が素晴らしい。

原作の作品それぞれが、話として難解なんですよね。脚本を仕上げて台詞やト書きを精査していく過程で、どんどん脚本が面白くなっているなと実感しつつも、実際に画にならないとわからない部分がたくさんありますね。そこを演出の中江がCGを使ったり、使用人による再現VTRを見せたりと工夫をしまして。

――再現VTR、すごいですよね。

推理パートは女探偵のパートと、貴族チームのパートがあるので、それぞれの推理が同じような見え方になってしまうと視聴者の方が飽きてしまうと思ったんです。だから女探偵の推理は登場する容疑者たちによるスタンダードな見せ方をしているのですが、貴族チームの推理は使用人たち自らが登場する再現VTRにするということで、皆様に楽しんでいただければいいなと。

――貴族だから、その場で再現VTRを作れるというのが「そう来るか!」と思いました。

いつの間に作ったんだ、という(笑)。多分に視聴者の皆さんに想像してもらう部分も、装置として僕らは作っているんです。そういうところも最初はドキドキしながら作っていたんですけど、もう振り切っちゃおうと思って。クセになる人が増えていってもらえると本当に嬉しいですね。

僭越かもしれませんが、テレビって、エンタテインメントってこういうことじゃないでしょうか、という提示を多少ビビりながら(笑)、させていただいている矜持はあります。キャスト、スタッフのみなさんには本当に振り切ってやっていただいています。

※次週・5月1日は、主役である「貴族」の役作りについての話を掲載します。