ウェッジはこのほど、ライフネット生命保険の出口治明 代表取締役会長と、認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹 代表理事の共著『世界一 子どもを育てやすい国にしよう』(1,200円・税別/ウェッジ)の刊行を記念した対談イベントを開催。出口氏と駒崎氏が、子どもを育てやすい国にするにはどうしたらいいかを自由に語りあったその内容の一部を紹介する。

左から認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹 代表理事、ライフネット生命保険の出口治明 代表取締役会長

長時間労働で成果が出せる時代は終わった

ネット専業の生命保険会社・ライフネット生命保険の創業者である出口氏。今回の著書は、NPOの病児保育サービスなどを通して、子育て家庭をサポートしている駒崎氏と「日本を世界で一番子育てがしやすい国にしたい」という思いを一にし、出版したものだ。

対談イベントでははじめに、「働き方」の問題について言及。出口氏は、「長時間労働で成果が出せる時代は終わった」と語った。「日本の高度成長期には、良い物を数多く作り、どんどん輸出して利益を上げるという、第2次産業中心のビジネスモデルが成り立っていた。そのためには、工場を24時間操業にし、力仕事のできる男性が長時間働くシステムの方が、効率がよかった」と述べた。

一方でバブルがはじけて時間がたった今、この構造はもはや成り立たないという。「現在は第3次産業が中心なので、ビジネスにおいてはアイデアが勝負。職場を定時で退社し、その後、たくさんの人に会ったり、本を読んだり、いろんなところに行ったりして、刺激を受けることが必要だ」。子育てと仕事の両立をしやすくするためにも、長時間労働を是正し、働き方や社会の仕組みを変えなければならないと訴えた。

「長時間労働で成果が出せる時代は終わった」と出口氏

駒崎氏はこの意見に賛同した上で、「高度成長期の成功体験に引っ張られている経営層の意識を変える必要がある」と指摘。駒崎氏のNPOでは、代表理事自らが定時退社することで、職員が帰宅しやすい空気を作り、平均残業時間を15分におさえているという。「残業代がかからないのでコスト削減にもなるし、"働きがいと働きやすさがある"職場ということで、採用力も強めることができた」と主張。「今後人材が不足していけば、長時間労働の企業は採用力が弱まり、淘汰(とうた)されていくと思う」と見解を述べた。

これに対して出口氏は、「バブルおじさんの意識が変わるのを待つよりも、若い皆さんが行動した方が早い」と提案。「ブラック企業であるとか、自分に合わないと感じる企業で働いていると感じたら、どんどん転職していいと思う」と語り、働き先の選択肢を幅広く見据えるよう勧めた。

子育てしながら働くためのインフラ整備を

さらに議論はセーフティーネットの話題に移行し、駒崎氏は、「女性と男性が子育てしながら働くためのインフラが、いまだに整っていない。保育園に入れないということが、許容される社会はおかしい」と指摘した。人類の長い歴史の中で、母親が1人で育児を担った時代は短いとのこと。両者共に、「3歳児神話に根拠はなく、保育園の義務化に踏み切るべき」との主張を展開した。

そのようなセーフティーネットが構築できない理由として、「財源がない」という言葉がよく聞かれる。しかし、そもそも子育てにかける国の予算が少なすぎると駒崎氏は説明した。駒崎氏によれば、子ども・子育てにかける国の予算(GDP比)は、出生率が2.0に近いフランスで2.85%、子育て先進国として知られるスウェーデンでは、3.5%となっている。一方で、日本はわずか1.3%だ。

駒崎氏は「あと1兆円あれば、日本の待機児童対策は前進する」と語った

「日本はフランスの半分以下の予算で、希望出生率1.8%を目標としており、過小投資だ。精神論で、フランス並みの目標を達成するのは明らかに難しい」。あと1兆円あれば日本の待機児童対策は前進するとし、「本当に国の予算を投入する必要があるのか、他の事業内容を見直せば、必要な額を捻出するのは難しいことではない」と語った。

一方出口氏は、保育所整備に加えて、医療や年金制度の充実も大切だと訴えた。また厚生年金の在り方について、「パートやアルバイトの人も適用拡大して、厚生年金に加入できるようにすべき」と主張。全ての人が、安心して働ける環境整備が必要だと語った。

「子どもをうみたいと思った時に、うめない社会は最低だと思う。世界一子どもを育てやすい国というのが、人間にとって一番いい国だ」と出口氏。対談の最後に駒崎氏も、「ビジョンを達成するためには、われわれが行動していく必要がある。社会保障の問題はどうしても世代間対立が生まれやすいが、シニア世代と現役世代が手を結んで、子育てしやすい国を作るために共闘していきましょう」と呼びかけた。

シニア世代も現役世代も、子どもたちが幸せに育ってほしいとの思いは一緒のはず。バブルおじさんだけでなく、現役世代に理解のあるおじさんだって、たくさんいるはずだ。もちろん、子育て環境の整備について、政府や自治体が果たす役割は大きいが、それらを動かす原動力として両世代が共に行動していけば、世の中は変わっていくのかもしれない。