父親の子育て支援を行っているNPO法人「ファザーリング・ジャパン(FJ)」。今年で設立10周年を迎えるにあたって、記念フォーラム「父親がMotto変われば、社会はもっと変わる! 」を開催した。フォーラムでは「FJが要らなくなる日は来るのか? 」をテーマにトークセッションが行われ、代表の安藤哲也さん、顧問で大阪教育大学准教授の小崎恭弘さん、理事の川島高之さん、武蔵大学の田中俊之助教が10年間の活動を振り返って考える"父親支援のあり方"について語った。

自分を主語にして人生選択をしていけばいい

代表の安藤哲也さん

安藤さん(以下、敬省略)「この10年を振り返ってみてどうですか」

小崎さん(以下、敬称略)「10年前に安藤さんに誘われて活動を始めましたが、当時は"父親の子育て"について説明しないと理解してくれない人がほとんどでした。ところが今は"イクメン"という言葉が広く知られるようになり、時代は変わったなと思います」

安藤「一方で、迷えるパパはいまだにいます。フォーラムの参加者からも、育休を取りたいけれど会社で取得実績がなく悩んでいるという声が聞かれました。この現状について、どう思いますか」

田中さん(以下、敬省略)「ファザーリング・ジャパンのメンバーの皆さんのように(父親の子育てについて)前に出て主張できるような人たちばかりではないというのがわかりますよね。普通のメンズ、いわゆる"フツメン"の悩みをもう少しすくいとってほしいなと思います」

小崎「それもそうですし、モデル理論というか、そういう前に出る人が先陣を切っていくことで、進むこともありますよね」

顧問で大阪教育大学准教授の小崎恭弘さん

安藤「やはり育休取得は言い出しづらいのが現状なのでしょうか」

川島さん(以下、敬省略)「上司から評価を下げられたくない、よく思われたいという気持ちがあるから言い出しづらいのだと思いますが、リスクは取りにいった方がいいと僕は思います」

小崎「安藤さんも川島さんも定型化していた仕事や子育てのあり方の逆を行く人たちだと思って見ていました。しかし今は何が正しいか分からない時代。だから主流となっている方針と逆の方向に向かう"逆張り"はありなのかなと思います」

安藤「田中さんの考えとして"父親はもう少し大切にされるべき"、"男性は生き方を大切にすべき"というものがありますよね」

田中「そうですね。そういう意味では、自分が何をしたいのか、何をしていけるのかということを考えないで、ただ子育てをします、働きますというのは、どうなのかなと思います」

川島「子育てにしても仕事にしても、自分を主語にして人生選択をしていくという意識が大切だということですよね」

理事の川島高之さん

"フツメン"にとって自分で選択するのは難しい

安藤「僕は楽しいかどうかがいつも選択の基準になっています。仕事でも子育てでも他人から言われてやっていたらつまらない。利己的にというだけでなく、利他的にという視点も含めて、自分を主語にして行動したほうがおもしろいと思いませんか」

田中「ただそれが意外と難しいのだと思います。"これが自分にとって楽しい"というのがわからないまま、取りあえず仕事をし、子育てをするということになってしまっている。もちろん川島さんや安藤さんは自分で考えられる人。しかし、自分で考えなさいというのは、僕らみたいな"フツメン"にとっては難しいことが多いです。ロールモデルがあまりにも高いハードルになってしまったら、逆にあそこまでやらないといけないのかと思ってしまう側面もあります」

武蔵大学の田中俊之助教

小崎「そう考えると、地方に行って地域とか職種とかで少しずつグループで顔が見える関係を作っていき、父親どうしの落ち着いた交流をうみだすのがこれからの方向性かなと思うのですが」

安藤「空中戦と地上戦みたいなことですよね。僕らの講演会に来てくれないような人たちに、空中戦で考えを届ける。さらにそれだけではダメで、セミナーなどで見える関係をどう作っていくかというのが僕のこの10年の事業戦略だったのですが」

田中「そうなのですが、安藤さんも川島さんも仕事が出来すぎるということは自覚されたほうがいいと思います。(活動するにあたって)明日はどうなるかという不安を抱えながら、プランもなくただ生きている"フツメン"の人たちもいるのだということを念頭におく必要はあるのかなと」

子育ては自分が主語にならないとつまらない

小崎「NPOという観点からみると、この10年でファザーリング・ジャパンが日本を代表する団体になったのは、安藤さんのパワーがあったからなのですよね。ただこれからの10年、第2世代をどうするか、考える必要はあるのかなと思います」

安藤「この10年で僕だけでなくメンバーの力で総合的なチームワークを獲得できたことはよかったと思います」

田中「僕もこれだけ異質な人をつなげているというところが大事だと思います。この団体がなかったら、メンバーの方たちは全くつながりのない他人だったわけなので、ネットワークを作ったという意義は大きいですよね」

小崎「父親の子育てという"行為"はあったけど"概念"がなかったので、概念を作って社会にプラットホームを作ったというのが大きな役割だったのではないでしょうか。ソーシャルな"父親"という概念を作り出したのですから」

安藤「ファザーリング・ジャパンに入ったことで、多くのパパたちが自分の人生や家族に対して責任を持てるようになってきたと感じます。パパがポジティブになり、子育てが楽しくなったという声は、たくさん頂いています」

川島「子育ては"自分がこれをやりたいんだ"というように、自分が主語にならないとつまらないということですよね」

小崎「活動当初は『自分も子育てをしていいんですか? 』というパパがたくさんいました。男性だって子どもと関わりたいし、家族を大切にしたいという思いがあることがわかりましたよね」

田中「規模にどう働きかけていくかっていうのを戦略として選ばれたのは非常に正しいことだと思います。ただ次の10年は、女性差別の問題にもアプローチしてもらいたいです。男女の賃金格差がある限り、例えば主夫を3割にしようと言っても、父親が母親よりも稼げるのであれば父親が働くということが合理的な選択になってしまうわけです。そのような政策提言もしていただきたいと思います」

安藤「そうですね。今後、ファザーリング・ジャパンが世の中のオルガナイザーみたいな役割を果たせるといいですね。市民運動をオルガナイズドしていけるような活動をすることが、次の楽しいミッションになっていくのかなと思います」