コミュニケーション能力は、あとから身につくもの

――いろいろな人の主張をまとめるには、コミュニケーション能力がいりそうですね

この仕事は、自ら動いて色々な人と関わらないと何も成り立たないので、必要だとは思います。一方で、生まれ持ったものではないんだなとも思いました。私は学生時代、○○実行委員をやらないと気がすまないとか、そういうタイプの人間では全く無かったので。自らがやりたい仕事に就き、自分が動くことによって企画が動いて、『僕街』や『あの花』のように反響を頂けたり、そういう"仕事が本当に面白い瞬間"を経験して、能力が身についていったと思います

――『あの花』はやはり大きかったですか?

大きかったですね。当時、入社3年目の自分に担わせてくれた、会社とプロデューサーにはとても感謝しています。宣伝の仕事として、間違いなく誇りにしたい作品の一つです。オリジナル作品であれだけ反響や感想を頂いて、すごく嬉しかったです。ふだんアニメを見ない人からもリアクションがあったのは驚きました。思い返せば色々な事をやりましたね。

――具体的にどのようなことを

まずプロモーションスケジュールを、日単位、時間単位で細かく作りました。ニュースリリースや、解禁ネタ、広告や、CM、Twitterなどなど、「この日、このタイミングで!」というのを全て決め、実施していきましたね。もちろんリアルタイムで新しいネタや、アイディアが出てくるので、随時更新して実行して行きました。 ここまで細かく設定して実行していた人間は、少なくとも自分の周りにはいませんでしたね。

ほかには、埼玉県の秩父市が作品の舞台だったので、秩父市の方や、西武鉄道さんと色々な取り組みをしていました。街の方にも作品を受け入れて頂けて、アニメをきっかけに訪れる人が増えているというお話を聞いた時は嬉しかったですね。あとは秩父ミューズパークという5000人くらい収容できる屋外ステージでイベントを開催したのも印象深いです。会場は駅から離れた山のほうだったのですが、本当に沢山の方に集まって頂いてとても感慨深かったです。

まだ三年目ということで、一つの作品に集中できる環境というのもありましたし。宣伝費もたくさん使いましたね。合計するとTVシリーズで考えたらありえないくらい使ってます…。

――そんなに使えるものなんですか! 今はプロデューサーという立場ですが

一番に考えなければいけないのは作品の成功なので、たくさんの人が興味を持ってもらうために宣伝費が多く必要であれば、その前提で予算を組みます。お金がかかるのはしかたのないことです。ただ、費用をかけるタイミングの見極めと、かけるに値するかは、きちんと精査します。それは宣伝をやっていた時から変わりません。

求められる「見極め力」

――見極めは大事ですか

非常に大事だと思います。世の中に面白いエンタテイメントがあふれている今の時代だからこそ、仕掛けてアクセルを踏むタイミングを見極めたい。そこまでがエンターテイメントだと思っています。

――見極め力を磨くにはどうしたらいいでしょうか

ありきたりかもしれませんが、まずは「考える」ということだと思います。作品のことはもちろん、受けとってくれる方々のことも考える。自分よがりになった瞬間に、エンタテイメントは終わると思うんですよ。意識しないと惰性になってしまうこともあると思うので、そこは気をつけたいと思っています。その企画、作品にとってのベストがあると思っているので、そこは妥協せず考え抜きたいと思いますね。 そして、考えたアイディアは、必ず行動に移さないと行けないと思います。考えただけではそのアイディアは皆さんに伝わっていないですからね。

――何かヒットしたときに、「それ前から考えてたのにな~」と言う人もいますよね

アイディアは先に実行した人のものだと思います。思いついたら絶対にやったほうがいいですね。

誰が受け手であっても、作品作りの根本は変わらない

――受け手という話が出てきましたが、どういう受け手をイメージされているのでしょうか。特に「ノイタミナ」という枠は、アニメファンではない人も見るイメージがありますが、違いなどはありますか

私は、「アニメファンか」「そうで無いか」というよりは、「アニメを見るか」「見ないか」、という捉え方をしています。この企画は「アニメーション」なので、「アニメを見る」人達に向けて発信をしていきます。もちろん「アニメを見る」人達の中には様々な趣向の方がいるので、その趣向に合わせて発信の優先順位を付け、発信の仕方を変えます。 ジブリ作品も、細田守監督の作品も、深夜アニメも、基本的には「アニメ」なので、最初の入り口は最も広く捉えた方が良いと思っています。ジブリだけを見る人がいる一方で、深夜アニメだけを見る人もいます。それは決して「アニメファンか」「そうで無いか」という括りではなく、あくまでも趣向の違いだと考えています。

なので、「ノイタミナ」だから、受け手が特別に変わるということは意識していません。ただ、「ノイタミナ」はフジテレビさんで放送される枠なので、 作品への到達のしやすさはあると思います。リアルタイムの反応や、torneの予約数など、より多くの人に見てもらえている感触はありますね。

でも、「ノイタミナだから」という企画や作品は、ないと思っています。作り手がそこを意識しすぎてしまうと、作品が制限されてしまうと思うんです。根本的にエンタテイメントを作ることが大切だと、個人的には思っています。

そういう意味では「僕だけがいない街」は極上のエンターテイメント作品だと思いますので、是非楽しんで頂きたいですね。

――ありがとうございました

『僕だけがいない街』

自分だけの時が巻き戻る現象"再上映(リバイバル)"に悩まされる青年・藤沼悟が、自らの過去と対峙し、もがく姿を描く"時間逆行"サスペンス。

毎週木曜24:55からフジテレビ"ノイタミナ"ほかにて放送中

(C)2016 三部けい/KADOKAWA/アニメ「僕街」製作委員会