昨年12月24日、8代目「アルト」発売からほぼ1年というタイミングで、スズキ「アルト ワークス」が発売された。5MT+ターボエンジンを搭載した、ファン待望のスポーツモデルだ。いつか出ると予想していたものの、東京モーターショーへの電撃的な参考出展から2カ月も経たないうちに市販化され、驚かされた人も多いのではないだろうか?
5MT+ターボエンジンで歴代モデルを踏襲
2014年末に8代目「アルト」が発売されて以来、いや、2000年に先代モデルが廃止されて以来、復活へのラブコールが止まなかった「アルト ワークス」。そもそも「アルトワークス」とは、1987年に2代目「アルト」のスポーツグレードとして登場したモデルだ。その後、独立した車種となり、4世代にわたって人気を博した。
人気の要因は、小型で軽量なボディと高出力ターボエンジンの組み合わせによる、軽自動車のイメージを覆すパフォーマンスにあった。ラリーをはじめとしたモータースポーツシーンでの活躍も記憶に残る。軽スポーツ最高峰のフルタイム4WD車も、より軽量で安価なFF車も人気があった。新型「アルト ワークス」も、最軽量の仕様(FF/5MT車)でわずか670kgという車両重量に、軽自動車の自主規制上限となる最高出力64PSのインタークーラーターボエンジンを組み合わせ、歴代モデルを踏襲している。
そして、これも歴代モデル同様、5MT車が設定された。昨年3月、やはり軽量ボディ+ターボエンジンで64PSを発揮する「アルト ターボ RS」が発売されたとき、マニュアル車の設定がないのを残念に思うユーザーの声が多く聞こえてきたが、それに応えた形だ。
5MT以外に「アルト ターボ RS」との違いはあるのか?
その「アルト ターボ RS」が約130万円からであるのに対し、新型「アルト ワークス」は約150万円からとなっている。それ以外に、大きな違いはどこにあるのだろう?
価格面で目につくのは、「ワークス」に標準装備されているセミバケットタイプ(リクライニング機構付き)のレカロ製シート2脚だ。レカロのセミバケットタイプにもいろいろあるが、過去に筆者が使っていたシート(アフターパーツ)の定価は、1脚10万円台後半であった。「アルト ターボ RS」との20万円の差は、ここで納得が行ってしまう。
前述の通り、「アルト ターボ RS」が5AGS(オートギヤシフト)のみ、「アルト ワークス」には5MTの設定もあること以外、型式が同じターボエンジンを搭載し、最高出力も一緒。車両重量も、いずれも最軽量の仕様で670kg(「アルト ターボ RS」のFF/5AGS車、「アルト ワークス」のFF/5MT車)と共通だ。
「アルト ワークス」のエクステリアを見ても、意匠や装備の違いはあるが、往年のワークスのように、形状の異なるヘッドライトなど専用の外観が与えられているわけでもない。それでも、フロントガーニッシュのエンブレムやボディサイドのデカールに輝く「WORKS」のロゴはじゅうぶん目に刺さるのだが。
……と、際立った違いがないようでいて、じつはエンジン、ターボチャージャーともに「アルト ワークス」専用のファインチューンを施してあるのだという。5AGSも専用チューンで変速スピードを短縮しているとのこと。ワークスを選ぶような、違いのわかるユーザーに喜ばれそうな、通好みな味付けがなされているというわけだ。
どうやら新型「アルト ワークス」は、5MTという魅力的な選択肢を備えているものの、従来のワークスのように独立車種として位置づけるほどの違いは持っていないように思える。それでも、走りの良さやモータースポーツへの展開によって、「アルト ワークス」の名が与えられた理由が今後、よりくっきりと見えてくることを期待したい。
1月15~17日の3日間開催される「東京オートサロン2016」でスズキブースに展示される「アルト ワークス GP」は、二輪のロードレース世界選手権「MotoGP」に参戦する、同社のワークスマシンのカラーリングを模したカスタムカーだ。お遊び的なカスタマイズだが、モータースポーツを強くイメージさせ、今後の活動を期待させてくれる。
「ワークス」とはもともと、メーカーから競技車両を購入して参加する「プライベーター」と区別して、メーカー自らが参戦する場合に用いられる言葉。新型「アルト ワークス」をモータースポーツシーンで目にする日を楽しみに待とうと思う。