多くのTV番組やライブで活躍する、お笑い芸人のケンドーコバヤシさん。漫画好きで知られるケンコバさんが、読んできた漫画から学んだ美学についてまとめた著書『「美学」さえあれば、人は強くなれる』(幻冬舎/税別1,100円)を上梓した。今回は、漫画からも影響を受けた? ケンコバさんの仕事観についてお話を伺った。

ケンドーコバヤシ
1972年生まれ、大阪府大阪市東住吉区育ち。1992年、第十一期生として吉本総合芸能学院(NSC)大阪校に入校。現在はピン芸人として、よしもとクリエイティブ・エージェンシー東京本社に所属。テレビ・ラジオ・映画・舞台・新聞連載など幅広い分野で活躍中。

怒りの感情が消えつつある

――『「美学」さえあれば、人は強くなれる』には、たくさんの漫画のキャラクターから得た教訓が書かれてましたが、漫画の中から学んで、若い時と今とで、変わった部分、良くなった部分は実際にありますか?

本を作っている時期から比べても、かなり丸くなってきたと思いますね。この本読み返してみても、「俺って、とがってたんだな」って思いましたからね。年々丸みを帯びてきてますね。でも、最近、怒りの感情が消えつつあることに、怯えすら感じつつあるというか。

――芸人さんのトークとかも、怒りがベースになっていることってありますもんね

そうなんです。怒りって、いろんなことの原動力になるじゃないですか。

――その代わり出てきたものってありますか?

怒りを発散するっていう意味での芸人としての魅力は減ったかもしれないけど、優しい人にはなりましたよ。僕は以前は、泣かない、泣けない人だったんですど、最近は映画館で嗚咽するくらいに泣いたりするようになりました。

――実際、何の映画で泣きましたか?

ちょっと前になりますけど、宮崎駿監督の『風立ちぬ』で泣きましたね。僕が泣いたのは、一番バッシングされたシーンだったんです。堀越二郎が妻の菜穂子の横で、タバコを吸うシーンだったんですけど。二郎が「体に悪いから向こうに行って吸うよ」というのに、菜穂子は「横で吸っていいよ」とうところで嗚咽したんです。

――病気の妻に対しては酷いと思うけれど、恋愛感情がそこから強く感じられるという矛盾をはらんだシーンでしたね。なかなか説明しきれないので、言いにくいですけど

僕は公に言ってますけどね。

――ケンコバさんだから言っても大丈夫みたいな発言もけっこうありそうですね

我ながらずるいなとは思いますけどね。この人、おかしいみたいになってしまうと、腫れものにさわるみたいな感じになって、あまり突っ込まれなくなったりはありますからね。

――ただ、こうしてお話を聞いていると、おかしいようでいて実はモラリストみたいな感じもあって

僕ほどモラリストはいないですよ。モラリストであり、リベラリストであり(笑)。矛盾した存在なんですよ。

心に残るさんまさんの言葉

――吉本の若手のときには、劇場で人気投票があって、「女子高生の支持がなければ、スタートラインにも立てない」と書いてありましたが、どうやってそこを突破されたんですか?

力ずくで笑わすしかなかったんじゃないですかね。ネタが始まって最初の一分なんか地獄みたいな空気だったけど、結果残ったということは、投票も得たってことですからね。あの頃は、悪い意味でとがってたんで、恥ずかしいですよね。自分でも獰猛な顔つきしてたと思いますもんね。でも、若手のときってのはそういうもんで、今、そういう若手がいるなら、それもいいと思いますけどね。

――ケンコバさんは、若手のときに、とがった自分を認めてくれた先輩っていましたか?

上のかたみんなそんな感じでしたよ、「それでいいんちゃうか」って。

――実際に、励まされた言葉ってありますか?

僕が直接言われたわけではないんですけど、(明石家)さんまさんが言うてはった、「どんなにタイミングの差があっても、おもしろい奴は続けている限り、あきらめない限り、ぜったいにいける」という趣旨の言葉には救われましたね。