昨年、中咽頭がんのため治療に専念することを発表していた音楽家の坂本龍一が、山田洋次監督の映画『母と暮せば』(12月12日公開)で仕事復帰することが3日、明らかになった。
坂本は3日、公式サイトでコメントを発表。「一年が過ぎ、おかげさまで今は体調もよくなり、仕事に復帰しようと思います。当分は家でできる作曲の仕事を優先させるつもりで、復帰後第一弾には、日本映画の大御所である山田洋次監督の『母と暮せば』の音楽を担当することになっています」と復帰の詳細について説明する一方、「当分ライブは控えるつもりです」と、しばらくは体力に配慮しながら活動していくことを明かした。
坂本にとって山田監督と初タッグとなる本作は、戦後間もない長崎を舞台に原爆をテーマとして描かれた映画。助産婦として暮らす母のもとへ、3年前に原爆で亡くしたはずの息子が突然現れる。楽しかった思い出話や、残していった恋人の話をして過ごす2人の日々がつづられている。映画では母・伸子役を女優の吉永小百合、息子の浩二役を二宮和也、浩二の恋人・町子役を黒木華が演じている。
映画の企画が立ち上がってすぐ、山田監督から坂本の名前が挙がり、映画音楽の制作をオファー。山田監督の「男はつらいよ」シリーズの大ファンだという坂本は、すぐさま快諾し実現に至ったという。坂本は、「『寅さん』映画は、歳をとるほどに味わい深く感じられます。最近などはタイトルバックの江戸川が見えるだけで、涙目になってしまいます。もう帰ってくることのない昭和の日本への郷愁でしょうか。小津安二郎や成瀬巳喜男の映画にも共通のものを感じます」と山田作品の魅力を語り、「その山田洋次監督から、次回作の音楽を頼まれました。しかも吉永小百合さんが同席しています。この二人に何かを頼まれて断れる日本人がいるでしょうか」と今回の出演の経緯を説明した。さらに今作が原爆をテーマにした作品であることについては、「核のない世界を望んでいるぼくとしては、これはやるしかありません。このような大作が、病気からの復帰後第一弾の仕事なのですから、ぼくは本当に幸せ者です」と語っている。
山田監督は、「『母と暮せば』の企画を発想したとき先ずぼくの念頭にあったのは、主役は吉永小百合、音楽は坂本龍一、このお二人しか考えられないということでした」と、今回の構想が当初からあったことを告白。「最初に吉永さんの承諾を得てそのあと、彼女と二人でコンサート中の坂本龍一さんの楽屋に押しかけ口づてで企画を話しました」と内幕を明かした。
「彼の口から快い承諾の返事を聞いたときは本当にうれしかったものです」と振り返る山田監督は、「坂本龍一さんと組んで仕事をするのは長年の夢でした。ぼくの頭の中にはすでに坂本龍一の美しい音楽が鳴り始めています」と大きな期待を寄せる。二人をつなぐのに一役買った吉永も「坂本さんが『母と暮せば』の音楽を創って下さることになって、うれしくてうれしくて舞い上がっています」と喜びを語った。
映画は4月下旬から7月中旬までの約2カ月半におよぶ撮影を終え、秋の完成に向けて、現在編集中であるという。
(C)2015「母と暮せば」製作委員会