誰しもが一度はかかったことであろう口内炎。口腔(こうくう)内のわずか十ミリ程度のあの白い斑点が、私たちに与える痛みは相当なものだ。せっかくのおいしい料理も口内炎のせいで満足に楽しむこともできないし、患っている間はブルーな日々が続く。
まさに「憎っくき口内炎」だが、この口内炎は体からのSOSを知るサインでもある。本稿では、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂先生の解説を基に、口内炎の原因と治し方などを紹介していこう。
口内炎には複数のタイプがある!
口内炎は正式な医学用語ではなく、口の中の粘膜に生じる炎症の総称であり、炎症が散在的あるいは比較的広範囲におよぶ状態をさす。そして、口内炎はその原因によって複数のタイプに分類できる。まずはそれぞれの特徴を知っておこう。
アフタ性口内炎
一般的に最も多く見られるのがアフタ性口内炎(潰瘍性口内炎)だ。はっきりとした原因は不明だが、ストレスや疲れによる免疫力の低下、ビタミンB2などの栄養不足、睡眠不足などが考えられている。アフタ性口内炎にかかると、赤く縁取られた2~10ミリ程度の丸くて白い潰瘍(かいよう)がほおや唇の内側、舌、歯ぐきなどに発生する。場合によっては、小さなものが2~3個群がって発生するケースも。普通は10~14日ほどで自然に消滅し、痕跡は残らない。比較的若年層に多くできる傾向がある。
「なかなか治らないときや炎症の範囲が広いときや何度も再発するときは、ベーチェット病などほかの病気の一症状であったり、薬が原因の場合もあったりするので、すぐに病院へ行きましょう」(今村先生)。
ウイルス性口内炎
ウイルスが原因で起こるものには、単純ヘルペスウイルスの感染が原因の「ヘルペス性口内炎(口唇へルペス)」や、カビの一種であるカンジダ菌の増殖が原因の「カンジダ性口内炎」などがある。そのほかにも梅毒や淋(りん)病、クラミジアなどのSTD(性行為感染症)による口内炎も知られている。
「ウイルス性口内炎でよく見られる多発性の口内炎は、口の粘膜に多くの小水疱(すいほう)が形成されます。それが破れてびらんを生じるたり、発熱や強い痛みを伴ったりすることがあります」(今村先生)。
カタル性口内炎
カタル性口内炎は、物理的刺激によって起こる。例えば、「入れ歯や矯正器具が接触した」「ほおの内側をかんだことによる細菌の繁殖」「熱湯や薬品の刺激」などが原因となりうる。
「カタル性口内炎は、口の粘膜が赤く腫れたり水疱ができたりします。アフタ性とは異なり境界が不明瞭で、唾液の量が増えて口臭が発生したり、口の中が熱く感じたりすることもあります。また、味覚がわかりにくくなることもあります」(今村先生)。
この3つのタイプのほか、特定の食べ物や薬物などが刺激となってアレルギー反応を起こす「アレルギー性口内炎」や、喫煙によって長期間にわたって口腔内が熱にさらされることで起こる「ニコチン性口内炎」などもある。
「バランスの良い食生活」が王道の予防法
どのような症状の口内炎か確認すれば、その原因を察することができる。そして、原因がわかれば予防もしやすくなるというもの。ここまでに紹介したものの中では、アフタ性口内炎が最も症状としてポピュラーだが、多くの口内炎に共通して言える簡単な予防方法は、「バランスの良い食生活」だと今村先生は話す。
「偏った食生活によるビタミン不足で口内炎が発生することがあります。ビタミンB、A、Cが大切なので、それらを含んでいる食品を食べるようにしましょう。あとはミネラルも必要なので、みそ汁にわかめなどを入れるのもいいでしょう」。
毎食、これらの栄養素に気をつけるのは大変かもしれない。そんなときは主菜や副菜、汁物などが付いたいわゆる「定食スタイル」の食事を、1日や2日に1回摂取するだけでも、体に与える影響が違ってくるという。
「あまり好きな物を食べられないのもストレスとなってしまい、口内炎に悪影響を及ぼします。スイーツなどの『自分へのご褒美』と、ビタミンを多く含んだ『自分の体へのご褒美』をうまく摂取してください」。
その他の予防法としては、口腔内細菌の増殖を抑えるための「食後の歯磨き」や、粘膜の免疫力低下を招く口の中の乾燥を防ぐための「水分補給・ガムかみ」などがあるという。これらは比較的簡単な予防策なので、積極的にトライしてみよう。
医師の診察が必要な口内炎とは
だが、どれだけ予防策を講じていても、100%口内炎を防げるわけではない。発症してしまった際はどのようにしたらよいのだろうか。
症状が軽度の場合、ビタミン剤を活用しての栄養改善や、内服薬やうがい薬などのOTC医薬品活用などで、ある程度は対処できるという。市販されているはちみつ「マヌカハニー」を塗布するという手段もある。ニュージーランドに生息するマヌカという植物は、殺菌作用に優れるほか栄養価も高い。患部の上から塗布したり、お湯などに溶かして飲んだりしても有効だ。
ただ、「症状が口の中全体、もしくは唇や口周辺へも広がっている」「発熱や全身の倦怠(けんたい)感を伴う」「症状が10日以上にわたって続く」などのケースでは、感染症や他の病気の症状が出ている可能性もある。歯科や口腔外科などを受診した方がよい。
口内炎はバロメーター
今村先生は、「体調が悪くなると、少しの刺激で口内炎ができてしまうことがありますし、ストレスがたまっている方も免疫抵抗性が落ちるので口内炎が起こりやすいです」と話す。そういう意味で、口内炎は体の調子を見る「バロメーター」となりうるのだ。
「ただの口内炎だから放置しておこう」といって自然治癒力に頼ってばかりでは、すぐにまた再発するとも限らないし、根本的解決には結びつかない。自身の体の状況を把握する意味でも、積極的に口内炎に関わるようにしよう。
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記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)
M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態 及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。