国内旅行の目的地として圧倒的な人気を誇る京都。「京都らしい」景色や風物に日本の伝統や美しさを再発見できるのはもちろんのこと、癒やしを求めて旅する人も少なくないだろう。

しかし、京都の街も再開発が進み、人々が思い描く「京都らしさ」が残る場所は実はそれほど多くない。そこで今回は、筆者がオススメする「京都らしさ」を感じられる散歩道を5つ紹介しよう。

「京都らしさ」を存分に味わう散歩道へ

八坂神社から祇園へ

「京都らしい」場所の筆頭は、なんといっても祇園(ぎおん)だ。京都の人々から「祇園さん」と呼ばれ親しまれている、「八坂(やさか)神社」から祇園の街並みを歩いてみよう。

八坂神社は、JR「京都」駅から車で約15分、京阪「祇園四条」駅より徒歩約5分の立地。京都有数の古い歴史を持ち、一説では飛鳥時代に創建されたという。毎年7月に行われる京都の夏の風物詩「祇園祭」は、この神社の祭りだ。

八坂神社を参拝したら目の前を通る東大路通を北に向かい、次の信号で知恩院の門を右に見ながら、左の新橋通に入っていく。新橋通は路地のような狭い通りだ。

しばらくは商店街が続くが、花見小路(はなみこうじ)通との交差点の先へ行くと、石畳の道の両側に伝統的な「紅がら格子」の家が立ち並ぶ景色が現れる。

そのすぐ近くには、白川の流れに架かる「巽橋(たつみばし)」が見えるはずだ。この橋のたもとにまつられている"辰巳大明神"は、伎芸の上達にご利益があるとされ、舞妓(まいこ)や芸妓(げいこ / げいぎ)の信仰を集めている。このあたりの風情は「これぞ京都! 」という感じだ。

白川の流れに架かる「巽橋(たつみばし)]は、これぞ京都! という風情

ここから先は、柳の植えられた白川沿いの道を歩いて行こう。この道は春夏秋冬いつ歩いてもいいが、桜の季節が特にオススメ。日暮れ時、川沿いの茶屋や宿屋に灯がともりはじめる時刻の桜は、艶(あで)やかで美しい。

日暮れ時の桜は、艶やかで美しい

石塀小路から八坂の塔、清水寺へ

八坂神社から南側に行けば、その一角に"石塀小路(いしべこうじ)"がある。ほんの150mほどの短い路地だが、道の両側には趣のある旅館や料理屋が並び、テレビCMなどにも度々登場している。

テレビCMなどにも度々登場する石塀小路

石塀小路を東側に出ると、目の前に広がるのは豊臣秀吉の妻・ねねが晩年を過ごした「高台寺(こうだいじ)」。歴史ファンならぜひとも立ち寄りたい寺だ。ここからは、家々の屋根の上に見える八坂の塔を目指して南へ歩いて行こう。

高台寺付近から見た東山のシンボル、"八坂の塔"

京都・東山エリアのシンボル、"八坂の塔"のある「法観寺(ほうかんじ)」は、飛鳥時代から続くという古い寺。現在の塔が建てられたのは室町時代の永享12(1440)年で、京都市街地では最古の塔だ。

塔の内部は拝観可能。2層目まで上ることもできるので、東山一帯を見渡せる眺望を楽しもう。なお、拝観は不定休のためご注意を。

さて、八坂の塔を出たら、有名な二年坂と産寧坂(三年坂)を歩いて行こう。坂の両側に軒を連ねる土産物屋をのぞきながら上っていけば、京都観光の中心地、清水寺はすぐそこだ。

哲学の道を歩いて銀閣寺へ

次に紹介するのは、京都を代表する散歩道のひとつ、「哲学の道」。そのユニークな名前は、京都大学で教鞭(きょうべん)をとっていた哲学者の西田幾多郎(きたろう)博士が思索にふけりながらこの道を散歩したことに由来するという。

京都有数の紅葉の名所「永観堂(えいかんどう)」こと「禅林寺(ぜんりんじ)」の北に位置する「熊野若王子(くまのにゃくおうじ)神社」前が、哲学の道の南端だ。同神社には市バスの停留所「南禅寺・永観堂前」か「東天王町」が近く、共に徒歩5分ほど。また、地下鉄東西線「蹴上」駅から「南禅寺(なんぜんじ)」の門前を通りつつ歩いて向かうのもオススメだ。

ここから北に向かって、約1.8kmの石畳の道が、京都東側の山裾(すそ)に沿うようにして「銀閣寺」こと「慈照寺(じしょうじ)」前まで続く。

春の哲学の道。桜のトンネルを歩く

哲学の道の傍らには、「琵琶湖疏水(びわこそすい)」が流れる。明治時代に京都の近代化のために造られた琵琶湖疏水は、今なお京都市の水道水や水力発電のために使われている水路だ。

道の途中で、緑に包まれた美しい寺「法然院(ほうねんいん)」などに立ち寄りながら歩くこと小一時間。やがて銀閣寺に近づくと、道沿いに土産物を売る店などが増えてきて、次第ににぎやかになってくる。

哲学の道には、春夏秋冬いつ歩いても折々の風情がある。しかし特にオススメの季節は、延々と続く桜のトンネルを楽しめる春先と、燃えるような紅葉が美しい晩秋の頃だ。

嵐山から竹林を通りぬけ祇王寺まで

今度は京都でも有数の人気観光エリアである嵐山・嵯峨野(さがの)から。平安時代には貴族の避暑地・別荘地だったこともあり、京都の市街地からは離れているイメージがあるかもしれない。しかし阪急電車を利用すれば、京都中心部の阪急「河原町」駅から阪急「嵐山」駅まで20分ほどで着いてしまう。

「嵐山」駅の改札を出たら、まずは嵐山のシンボル「渡月橋(とげつきょう)」を目指そう。「渡月橋」の架かる「桂川(かつらがわ)」の上流は「保津川(ほづがわ)」とも呼ばれ、渓流下りが有名。川沿いを走るトロッコ列車に揺られて上流の亀岡まで行き、帰りに保津川下りを楽しむ人も多い。

嵐山のシンボル「渡月橋」

「渡月橋」を渡った先には京福電鉄(嵐電)の「嵐山」駅があり、周辺には飲食店や土産物屋が軒を連ねる。駅の300mほど先にある「野々宮(ののみや)」バス停留所の手前の小道を入っていこう。ここから先は、美しい竹林の世界が広がっている。

竹林の道を5分ほど歩いて行くと、『源氏物語』にも登場し、縁結びにご利益があるとされる「野宮(ののみや)神社」がある。神社の少し先で山陰本線の踏切を渡れば、散歩道は奥嵯峨へと続く。

竹林の道を歩けば、竹の葉の擦れる音に心癒やされる

松尾芭蕉の弟子の向井去来(きょらい)が住んだ「落柿舎(らくししゃ)」や、紅葉の名所として知られる「常寂光寺(じょうじゃっこうじ)」、二体の本尊をまつる「二尊院(にそんにん)」などに立ち寄りながら歩いて行くと、いつしか、静かな奥嵯峨の地へと足を踏み入れていることに気づくはずだ。

奥嵯峨では、楓や竹林に囲まれ、息をひそめるようにたたずむ「祇王寺(ぎおうじ)」という寺を訪ねたい。

この寺の名前の由来となったのは、平安時代末期の白拍子(しらびょうし)である"祇王"という女性。祇王は平清盛の寵愛を受けたが、別の白拍子に清盛の愛が移ったことをはかなみ、わずか21歳で尼になり、母や妹とともにこの地で静かに暮らしたという。なんとも悲しい話だ。

奥嵯峨の「祇王寺(ぎおうじ)」には、白拍子・祇王の悲しい伝説が伝わる

きぬかけの路を歩いて世界遺産めぐり

最後に紹介するのは、沿道に「金閣寺」こと「鹿苑寺(ろくおんじ)」、「龍安寺(りょうあんじ)」、「仁和寺(にんなじ)」と3つの世界遺産がある「きぬかけの路(みち)」。平安時代、宇多天皇が真夏に雪見をするために「衣笠山(きぬがさやま)」に白絹を掛けたという故事がその名の由来だ。

「きぬかけの路(みち)」の石碑。衣笠山の伝説が名前の由来という(写真提供: きぬかけの路推進協議会)

金閣寺側から歩きはじめても仁和寺側から歩きはじめてもいいが、金閣寺側から歩けば下り坂が多いので歩きやすい。金閣寺は、JR「京都」駅から市バスで40分ほどだ。

金閣寺前から最初の1kmほどは住宅地が続く。住宅地を抜けると右に衣笠山が見え、左には立命館大学のキャンパスが広がる。さらに歩いて行くと、有名な石庭のある龍安寺が見えてくる。龍安寺からカーブの多い坂道を下っていくと、間もなく仁和寺に到着し、きぬかけの路はここで終点だ。

さらに散歩を続けるなら、近くにある京福電鉄北野線「御室仁和寺(おむろにんなじ)」駅から嵐電に乗り、映画村や「広隆寺(こうりゅうじ)」のある太秦(うずまさ)に行ってもいいし、嵐山方面に足をのばすのもオススメだ。

※記事中の情報は2015年5月時点のもの

著者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。