宮崎県の地鶏や地元料理を楽しめる塚田農場は、現在直営店が153店舗、ライセンスと合わせて合計約200店舗と、続々店舗数を伸ばしており、インターネットやTVでも話題となっている。その飛躍的な成長を支えるのが、塚田農場を運営するエー・ピーカンパニーの取締役副社長 大久保伸隆氏。代表である米山 久氏が生み出した理念「食のあるべき姿を追求する」を基軸に、そこからさまざまな時代に合った戦略を立てていくのが自分の役割と語る大久保氏に、独自のビジネスモデルについて伺った。

エー・ピーカンパニー 取締役副社長 大久保伸隆。2006年、大学卒業後大手不動産会社に就職。2007年にエー・ピーカンパニー入社後、「宮崎県日南市 塚田農場 葛西店」、「同 錦糸町店」店長勤務などを経て2011年に取締役就任。2014年に現職

塚田農場を成功に導いたもの

――最近かなり話題の「塚田農場」ですが、独自のビジネスモデルについて教えてください

生産者と消費者の間には、農協や市場などさまざまな中間流通が存在します。消費者は高いものを買わされ、生産者は安く買いたたかれるケースがみられます。そこで、当社が選んだのが、地鶏の養鶏を自分達で行うという選択です。中間流通をカットし、消費者も生産者も利益を得られる「生販直結モデル」が塚田農場のスタイルです。

生産者は自分達の価値を形にするのが苦手です。それをバイヤーや商品企画、また宮崎県に派遣された駐在員などがブランディングして付加価値をつけ、提供するわけです。たとえば、最近発売した「虹色ピーマン」もそのひとつ。ピーマンは緑から赤へと熟れていくのですが、その中間の段階はまさに虹色のようなグラデーションをみせ、旨さを増していきます。決して店頭に並ぶことのないピーマンですが、ちゃんと付加価値をつけると、そこにストーリーが生まれ、魅力ある商品になるんです。

「塚田農場」メニューに導入された虹色ピーマン。生での提供も調理メニューも展開している。

生産地に派遣された駐在員は、生産から商品企画まで何でも行う、まさに1人6次産業状態。そんな彼らから、新しい商品の提案が上がってくることも多いですね。

企業の理念の浸透させるために必要なもの

――社員の方の自主的な行動には理念を浸透させることが必要かと思うのですが、そのために行ってきたアプローチ法はありますか?

企業の理念や想いを浸透させるには、3つのフェーズがあります。第1フェーズは創業者である米山が語ること。当社のミッションである「食のあるべき姿を追求する」ことが、これにあたります。第2フェーズは代表者の次に来る立場の私が社員に語り続けること。これは、一見、非効率に見えるかもしれませんが、僕らのような代表のフォロワーが語らなければ組織全体に理念は浸透しません。

そして、我々が現在位置するのが、第3フェーズである教育者を教育する段階。組織が大きくなった時、壊れてしまう原因のひとつに、教育者不足があります。社員全員に創業者の想いを伝えていく教育者が必要なのです。当社では、幹部を30名に増やし、実際に直接人の心を動かす伝達力を鍛えたりしています。

――具体的にはどんなセミナーを行っていますか?

これは社内で使ってる名前なのでちょっと恥ずかしいのですが……たとえば「護摩行(ごまぎょう)」と呼んでいるものがあります(笑)。私と教育者候補生が1対1で向き合い、「その間の取り方、1秒遅い!」など、伝達の腕を上げていくための教育の場をもうけています。私のノウハウをすべて教えて、それを現場で試してもらって、更にまた私と候補社員が1対1で向き合って……最終的には候補社員が自分の言葉で教育できるようになるまで繰り返しています。

当社では、100人~150人の人材に対して、1人の教育者を確保できるよう、体制を整えつつあります。また、教育者の教育は、社内だけでは伸びません。それは、社内の人材が行うとプライドやライバル心などが邪魔をしてしまうから。そこで、全体の半分ほどを外部にアウトソーシングし、教育の仕入れを行っています。

ホスピタリティにあふれた接客の極意

――塚田農場にはじめて行くという人は、その接客やホスピタリティの高さに驚くと話題ですが、スタッフのモチベーションを上げる方法にはどのようなものがありますか?

お客さんを前にして、最初から100点の笑顔をふりまける接客の天才なんて、塚田農場でも1%程です。たいていの社員やアルバイトは、最初はガッチガチになります。そこで、塚田農場が取り入れているのが400円の権限移譲。お客様1人あたり400円までなら、自分で考えたサービスをしてもいいというものです。これを"ジャブ"といい、来店したお客さんがだんだんこの店に通いたくなるクセになるサービスのことを指します。ジャブは、全店共通で決められているものもあれば、独自に考えるのもOK。

ネタバレになってしまうので詳しくはお話できませんが、社内的には全店のジャブをまとめたポータルサイトがあり、スマホから気軽に新しいジャブを投稿できるようになっています。全店共通のジャブもあるので、アルバイトを始めたばかりでスキルがなくてもお客様を喜ばせることができるというわけです。ただ、これも長くやっているとだんだん飽きが来ると思うので、どんどん新しい仕組みにしていかなければと思っています。

アルバイトを始めたばかりでも、お客様に喜んでもらえたという成功体験を早い段階で味わえば、それが自分の喜びにつながります。お客様満足と従業員満足が同時に訪れることで、サービス業はうまく回りだすのです。その仕掛けをつくったことが、塚田農場の活気あるお店づくりのヒミツかもしれません。