働く女性たちに、キラキラしただけではないリアルなエピソードを聞いていくこのシリーズ。今回は、企業で都合の良い存在になってしまう同僚を見てきた女性に話を聞きました。会社に都合よく扱われてしまう人には、ある共通した条件があるようなのです。

今回ご登場いただいたのは、大学卒業後、ある自治体の新卒未就労者支援事業の紹介予定派遣を経て正社員になり、その後転職をして商社で一般職をしているHさん(26歳)です。

社長に物を投げつけて飛び出していった同僚

――最初に入った会社はどういう会社だったんですか?

画像はイメージです

20代の社長が経営する、外回りの営業が中心の会社です。最初は社長も外回りをやってたんですけど、だんだんやらなくなってきて、社員にダメ出しばっかりしてましたね。

――どんなダメ出しがあったんですか?

朝の出勤時間よりも一時間は早く来いって言われてました。営業に出かける準備は、前日にちゃんと仕込んでおけば15分もあればできるんです。なのに一時間も前に来させるなんておかしいので、私は断固として行かないようにしていました。

――周りの同僚はどうでしたか?

それが、同じ年くらいの同僚には、「朝早くなんて来る必要ないんだよね」って話し合っているのに、いざ、朝になるとちゃんと一時間前に来てしまうんですよ。

――その一時間で何をしているんですか?

普通にお金を計算したりとか、事務全般ですね。もちろん、早く来てもお金なんか支給されないんですよ。でも、来ちゃうんです。その子の気持ちもわかるんですよ。いちいち歯向かったり反発するのって、めちゃめちゃ面倒くさいじゃないですか。そんな面倒くさい思いをして抗議をするくらいなら、まだ朝早く来たほうが楽なんだと思います。私もそういう気持ちはありましたから。

――そんな状態で、会社の空気なんていいわけないですよね……

そうです。だから、あまり文句を言えないでいた同僚の女の子は、ある日突然爆発して辞めちゃったんです。朝、早く来ているのに、その時間内で朝ごはん食べていたら怒られちゃって。最後は、そんな小言を言った社長に物を投げつけて外に飛び出して言って、それで辞めてしまいました。

おかしいことはおかしいと言う気力

――辞めるときには、文句は言われないんですか?

それはないんですよ。人材は使い捨てだから、またすぐ派遣会社から紹介してもらえばいい。そこの社長は言っていました。「不況で人があぶれていいところに就職できないと、うちみたいな会社にも比較的経歴のまともな人が来るからいい」って。

――それはなんか怖いですね……。Hさんは小出しで歯向かっていたから、突然切れることはなかったんですかね

私は父が法律に詳しかったり、大学で労働について学んでいたりもしていて、周囲に励まされていたので、面倒くさいけどおかしいことはおかしいって言う気力がありました。でも、そんな状態の会社にずっといてもいけないと思って、一年になる前に辞めたんです。そのときまで雇用契約書すらもらっていなくって、辞める直前に私から言って契約しました。

――その後は、転職はうまくいったんですか?

まだ大学の就職課が条件的に使えたので、大学で求人を見て、今度は商社の一般職の正社員になれました。欠員がちょうど出ていたのと、英語が多少できたこともあり。それと、前のブラック会社も一応、正社員だったんで、正社員をやっていたということが合格に結び付いたそうです。あんな会社でも、経歴としては役に立つんだなと。

残業代も出ない営業男性

――今度の会社はどんな雰囲気ですか?

ぬるいといえばぬるいけれど、空気は前の会社に比べて悪くないです。私は絵描きになりたいという夢があるので、ここで働きながら、少しずつダブルワークもしていきたいなと思っています。

――今の会社の仕事も大変ではないですか?

営業の人たちに比べると、随分楽ですね。定時で帰れることも多いし、もし残業があっても、ちゃんと残業代を出してもらえるし。でも、会社の中には、なんとなく慣習みたいなものもいっぱいあって。

――それはどんな慣習でしょう

私たち事務には残業代が出るんですが、営業の人たちには出ない。それに、私たち事務は有給も取りやすいんですが、営業の人たちは全くとらないんです。

――そんなに違いがあるんですか

会社は男女の仕事が分かれていて、事務は女性、営業は男性って感じなんですね。だから、女性は有給とってもいいし、残業代ももらっていいけれど、男性は有給もとっちゃいけないし、残業代も出ないってなってる感じです。でも、同じ事務の女性で、有給をとってもいい空気なのに、かたくなにとろうとしない人もいて、あれはなんなんだろうって思って。

――学校の皆勤賞を目指そう、みたいな価値観が会社員になっても沁みついているのかもしれないですよね。自分にも最初はそういうのありましたから。営業の人たちは、自分たちが有給もとれず、残業代も出ないことに関してはどう思っているんでしょうね

たぶん、この会社にずっといるから、そういうもんだと思ってるんだと思います。疑問も持ってないから、私たち事務が有給をとってようが残業代をもらっていようが、うらやましそうな目で見られたこともありません。「男とは、営業とはそういうもんだ」という空気にのまれているんだと思います。私も、それはおかしいんじゃないの? って思っても、自分の立場では、他人の労働環境についてまで異議申し立てはなかなかできないですよね。

――確かに空気を重んじる会社でそれはできないですよね

私個人としては今の会社に入ったことで環境はよくはなったとは思っています。でも、会社には多かれ少なかれ、今の環境を変えるために、一人で抗うのは面倒くさいと思う人がいて、その気持ちのせいで付け込まれてしまうこともあるってことがわかりました。それと、やっぱり、長く同じ環境にいたり、労働についての知識がないと、ブラックな環境にいて、それに気づいていても、それがブラックであると説明できないってことってあるんですよね。自分がそういう目にあったら、面倒でもちゃんと抗っていかないといけないと思っています。

まとめ

ブラックな企業や、ブラックとまではいかないけれど、都合の良い条件下でも働き続けていってしまう人には、ふたつの特徴があることがわかりました。

ひとつは、会社に抗ったり交渉して労働環境を良くすることと、自分が言われたことに従うことを天秤にかけて、従うほうが心理的コストもかからないし楽だと思ってしまう人。そして、もうひとつの特徴は、会社の慣習に慣れすぎて、自分の働き方が、そもそもおかしいのかどうかも考えていない人ではないかと思います。

確かに、会社で、上司や経営者から言われたことにいちいち抗っていると、職場の空気を乱してしまいかねません。それが嫌で、自分だけが耐えればなんとかなる。と思う人もいることでしょう。

何もかもに疑問を持つ必要はないと思いますが、あまりにもおかしかったら、面倒くさがらずに動いてみることも必要かもしれません。その見極めもまた難しいのですが……。


西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トークラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。