和素材を楽しめるパンとしてぱっと思い浮かぶのは、きなこやほうじ茶などの風味豊かなものであろう。ところが、同じ質問を岩手・青森の一部の出身・在住者に投げかけると、意外な素材を使ったパンを挙げる人が多い。その名も「ツイストようかん」。名前の通りようかんが使われた一風変わったパンだが、なんと40年以上のロングセラーを記録している。
「ドリアン」を越える人気パンを!
作っているのは昭和23年(1948)創業の一野辺製パン。手作りにこだわり、成形から仕上げ工程に至るまで全て、機械に頼ることなく人の手で作った"イチノベパン"によって、食べる人に笑顔をもたらし続けている会社である。商品の販売地域は、青森県南から岩手県北にかけての南部(藩)地方。同エリアにおいて、イチノベパンの知名度は絶大で、いわゆる「ご当地パン」として人気を博している。
「このエリアに住んでいる人はみなさんは一様に、『イチノベパンって全国で販売されてると思ってた! 』とおっしゃいますね」と教えてくれたのは、同社専務取締役の一野辺崇(いちのべたかし)さん。
一野辺さんによると、「ツイストようかん」(税抜120円)が発売されたのは昭和42年(1967)のこと。50年近く前のため、誕生秘話を知っている人は既に社内にいないというが、一野辺さんが推測するに、当時、クリームパンの上にようかんをのせた「ドリアン」というパンが人気を博していたことから、さらにその上をいく人気パンを目指して開発されたのだろうとのこと。
「パン生地は、弊社オリジナルの菓子パン生地をツイスト型成形して作成しています。その生地にタテに切れ目を入れて塩味の効いたマーガリンを絞った後、パンの上部に特製ようかんを付け、ようかんが固まったら完成です。ようかんの甘みとマーガリンの塩味のマッチングの良さがポイントですね」。
気になるのはその味。ようかんというからには日本茶と相性抜群かと思いきや、「マーガリンが入っているからか、牛乳やコーヒーのほうが合いますね」と一野辺さん。さらに、「チョコパンだと思って食べた子どもが、ようかんだと気付いた瞬間に泣いたという話は"ツイストようかんあるある"ですね」なんてユニークなエピソードまで披露してくれた。
卵がはいっていない「タマゴパン」!?
さらに、「こんなパンもあるよ」と一野辺さんが薦めてくれたのが「タマゴパン」(税抜120円)。面白いことに、なんとタマゴパンにはもともと卵が入っていなかったことが判明した。
「昔、タマゴパンを作る際には、1kgの生地玉を150gずつに分けてモルダーに入れて、それを伸ばして生地を成形していたんです。それで、生地玉から子ができる"玉から子"のイメージで"玉子パン"と名付けたのが始まりです。ただ、鶏卵と掛けていたのは確かで、それを表現するために黄色の着色料を使っていました」。
その後、時を経て実際に鶏卵が使用されるようになったことで、名実ともにようやくタマゴパンとしてリニューアルしたわけであるが、リニューアル後も人気は変わることなく、今では50年以上の歴史を持つ超ロングセラーだ。
ふかふかのソフトなパンにホイップクリームをサンドした作りで、食べ応えは抜群。大人から子どもまで大好きな味だ。
ちなみに、タマゴパン製造過程でどうしても発生してしまう「タマゴパンのみみ」なんていうユニークな商品もあるそうなので、南部地方を訪れた際にはぜひ探してみてほしい。街中の店舗以外に、国道4号線沿いにある一野辺製パン直売店を利用するのも手。アウトレット価格の商品もそろっているので、おいしいパンを思う存分楽しんで!
※記事中の価格・情報は2015年4月取材時のもの