自国通貨安によって景気刺激を図ろうとする、「通貨安競争」との批判も
2015年に入って、ECB(欧州中央銀行)がQE(量的緩和)の実施を決定し、またそれに前後して多くの中央銀行が金融緩和・利下げに踏み切った。各中央銀行が自国通貨安によって景気刺激を図ろうとする、「通貨安競争」との批判も出てきた。
2月9-10日にトルコのイスタンブールで開催されたG20(20か国財務大臣・中央銀行総裁会議)では、声明の一節で、「(いくつかの国では、)緩和的な金融政策を必要としていることに合意する」と謳われ、公式的に各国中央銀行の金融政策が事後承認された格好だ。
気になるのは、そうした政策発動の過程で、政治の介入がみられたことだ。フランスのオランド大統領は、ECBのQE決定の3日前に「ECBは恐らく大量の国債購入を発表する」と語ったとされる。
あからさまだったのは、トルコのケースだ。TCMB(トルコ中央銀行)は1月20日、0.50%の利下げを決定した。利下げの前日には副首相が「閣僚は明日の利下げを期待している」と語り、利下げ直後には別の副首相が「利下げは不十分」と語った。その後、エルドアン大統領は政策金利が高すぎるとして、改めてTCMBを批判。「金融政策がうまく運営できないのであれば、TCMBは責任を負うべき」とまで言い切った。
TCMBのバシュチュ総裁もさすがに、先のG20の場で、「高インフレの解決策は金融引き締めである。経済成長に対して中央銀行ができる最大の貢献は、物価安定を維持することだ」と反論している。
昨年10月の日本銀行の金融緩和、安倍首相の"激怒"が事実ならば懸念すべき
本来、中央銀行は政治からの独立が望ましいとされる。日本銀行のホームページにも、独立性に関して、「各国の歴史をみると、中央銀行には緩和的な金融政策運営を求める圧力がかかりやすいことが示されています。(中略)こうした事態を避けるためには、金融政策運営を、政府から独立した中央銀行の中立的・専門的な判断に任せるのが適当であるとの考え方が、グローバルにみても支配的になっています」とある。
もちろん、中央銀行が好き勝手してよいわけではない。多くの国で、総裁や幹部は政府から指名され、議会(国会)に承認される。また、中央銀行は、事後的に政府や議会に対して説明責任を負っている。日本銀行法では、金融政策が「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とされている。
それでも、中央銀行の独立性が脅かされるならば、「物価の番人」「通貨の番人」としての信任は低下し、度を超えたインフレ期待の上昇が、「悪い通貨安」や「悪い金利の上昇」を招くことになりかねない。
昨年10月の日本銀行の金融緩和に対して、「事前に」知らされていなかった安倍首相が激怒したとの噂が流れたが、もしそれが事実ならば懸念すべきかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。