ニュージーランドワインの歴史は比較的新しく、19世紀にブドウの木を植えたのが始まりだという。「歴史は浅いが、その分、実験的なことができるのがニュージーランドワインの魅力。コルクではなくスクリューキャップを世界で一番採用しているのも、そうした試みの表れ」と地元ワイナリーのスタッフは言う。そんなニュージーランドワインをじっくり楽しめるワイナリー巡りが、いま注目されているという。
世界に知られる名ピノ・ノワール
ニュージーランドは主に北島と南島で構成されているが、今回筆者が訪れたのは、世界で最も南に位置するワイナリーである南島のセントラル・オタゴ。マウント・アスパイアリング国立公園に接する南島のワナカから車で1時間程度なので、大自然を満喫した後は、ここでニュージーランドワインにどっぷり浸るひとときを楽しむのもいいだろう。
セントラル・オタゴには80以上ものワイナリーがあり、ワイン畑や工場、レストランなどを併設しているワイナリーのほか、家族で経営している小規模なワイナリーもある。周囲は2,000m級の山々に囲まれており、今でも1860年代のゴールドラッシュで採掘された跡地をうかがうことができる。また、青い氷河湖や透明度の高い川もちらほら。そんな中に広がるブドウ畑は、周囲の風景と相まって"絵になる"の一言に尽きる。
訪れた12月は夏にあたるため、ワイナリーに広がるブドウ畑ではこれからおいしい果実なるべく、小さな実をいっぱいつけたブドウたちが立ち並んでいた。
寒暖の差が激しい乾燥した内陸性気候を生かして作られるワインは世界的にも評価が高く、特に良質のピノ・ノワールを産出していることでも知られている。とはいえ、ニュージーランドの人々は白ワインを好む傾向があるようで、ニュージーランドの国内向けには、白ワインの生産に力を入れているワイナリーも多いようだ。
自然の摂理の中で育むワイン
中でもその希少性で知られるのが、「フェルトン・ロード」のピノ・ノワールである。1991年に設立された同社は当初、ブドウ畑だけを保有してブドウを販売していたという。ワイナリーとしてスタートを切ったのは1997年のこと。その土地や環境のみならず天体の動きにも着目した農業「バイオダイナミック」を採用し、農薬・化学肥料も使用しない、自然の摂理を大切にしたブドウ作りを守っている。
特別に見せてもらったワイナリーの中では、フランスから取り寄せたオーク材の樽の中で、ピノ・ノワールやシャルドネ、リースリングたちがまさに熟成中。生産している半分以上は隣のオーストラリアのほか、アジアや欧米になどに輸出されているという。
ワイナリーの中には無料で試飲できるところもある。今回、「フェルトン・ロード」ではピノ・ノワールとリースリングをいただいた。ピノ・ノワールは初めこそ柔らかい口当たりだが、次第にフルーティーさが立ってくる。一方、リースリングはというと、白桃を思わせる甘みが特長で、食前酒として楽しむのにも向いているそう。試飲はスタッフがサポートしてくれるので、「ブドウの品種の違いは?」「このワインに合う料理は?」などといろいろ質問してみるといいだろう。もちろん、その場で購入することも可能だ。
単一畑で作られた"幻のワイン"も
一方、理想的な土壌を持つブドウ畑別のワインを作るなど、現在も極上のワインを求めて開発を続けているワイナリーが「マウント・ディフィカルティー」だ。同社は1998年に設立され、セントラル・オタゴの各地にワイン畑を抱えている。
ブドウの品種別にいくつかのワインを設けているのが同社の特長。飲みやすさとコストパフォーマンスを兼ね備えた「ローリング・メグ」、厳選した数カ所の畑のブドウを用いて作られた「マウント・ディフィカルティ」、そして、理想的な土壌を持つ単一畑のブドウで作られた「マウント・ディフィカルティ」である。
単一畑のワインは「マウント・ディフィカルティ・ターゲット」などのように、畑名を加えて命名している。この単一畑のワインはその年の出来次第で生産が決まるため、毎年作られるものではなく、生産量にも限りがある。だが、こうした単一畑のワインを増やせるよう、現在も質の向上を図っているそうだ。今回試飲したリースリングはさわやかな酸味と甘みのバランスが良く、「魚介系のパスタなどとも相性がいいですよ」とアドバイスをいただいた。
こちらのワイナリーでも無料の試飲ができるが、オススメなのはワイナリーに併設されたレストランだ。メニューリストには料理とともにその料理に合うワインも記されている。ワイナリーは小高い丘の上にあるため、テラス席からはワイン畑とともに2,000m級の山々が広がる眺望が楽しめる。「極上の料理の側にこの絶景の中で育まれたワインがあったから」。つい飲みすぎてしまった理由として申し分ないだろう。
ふだん、あまりワインを飲まないという人も、気後れせずスタッフに質問してみるといいだろう。そして帰国後はぜひ、「世界最南端のワイナリーに行ったらね……」などと、友達や家族に"ワイン通あるある"を話していただきたい。
※記事中の価格・情報は2014年12月取材時のもの