生まれてから一度も頭痛を経験しなかった人はいないだろう。風邪や寝不足、二日酔いなど、さまざまな場面で頭痛は起こる。このように理由が明らかな頭痛は、皆さほど心配しない。しかし原因が分からない場合は、脳腫瘍や脳出血などの生命に関わるものではないかと心配になり、医療機関を受診してCTやMRIで調べたくなる。
ところが、検査をしてもほとんどは異常がみられず、精神的なストレスによるものと考えられるケースも多い。今回はストレスがきっかけとなる頭痛について、桐和会グループの精神科医・波多野良二先生に解説してもらった。
ストレスが原因の代表的な頭痛は2種類
波多野先生によると、ストレスが原因で生じやすい代表的な頭痛は「緊張型頭痛」と「片頭痛」であるという。
「緊張型頭痛」は、主に後頭部に痛みを感じる。精神的・身体的ストレスやにより頸(くび)の筋肉が緊張することによって起こる。身体的ストレスは、「長時間のパソコン業務などによる目の疲労や肩こり」「無理な姿勢での長時間労働」などによってたまりやすい。周囲の筋肉がこわばって血行が悪くなり、肩こりが生じる。さらには疲労物質がたまって周囲の神経を刺激し、頭痛を招くと考えられている。
通常、頸椎(けいつい)は前方に向かって弓のように曲がっているが、生まれつき頸椎(けいつい)がまっすぐな人は、頭の重さを支えきれず頭痛が起きやすい。また心配事や不安、悩みなどを抱えていると、その精神的なストレスによって神経伝達物質が増減して頭痛が生じることもある。
「頭がい骨の内側(かつ脳の外側)には、左右対称に血管と神経が並んで走行しています。『セロトニン』という神経伝達物質はうつ病、不安障害、過敏性腸症候群に関連することが知られていますが、この物質は血管を収縮したり拡張したりすることにも関わっています。ストレスなどにより『セロトニン』がうまく調整できないと、血管がピクピクして近くを走行する神経を刺激してしまい頭痛が起こります。こうして片側で表面に近い痛みが起きるの、が片頭痛です」。
それでは実際にあった事例を見てみよう。
事例
しばしば生じる後頭部の頭痛に悩むCさん(40代・女性)。脳腫瘍やくも膜下出血を心配し、いくつかの医療機関を受診、検査するも異常はないと言われていた。とうとう頭痛専門外来を持つ大学病院脳外科を受診したところ、精神的なものが原因と診断され、同大学病院の精神科と連携した治療が行われた。薬物治療やカウンセリングにより、徐々にではあるが症状が改善していった。
「このCさんの場合は、緊張型頭痛や片頭痛でもなく、ある精神疾患によるストレスが原因で頭痛が生じるというケースでした。脳の重大な病気が除外されて精神的なものと判断され、精神科的治療を行うことで症状が治まるというケースは、まれではありません」。
ただ、はじめから「頭痛は精神的なものが原因だろう」と思いこんで放っておくのは危険だ。症状がずっと続いたり、強くなったりした場合はきちんと医療機関を受診し、場合によっては精神科を受診した方がよいという。
ストレス軽減の努力もプラスして
頭痛の治療は薬物療法が中心だが、ストレスを軽減する努力も並行して行うことが大切となる。
「長時間パソコンに向かう人は、1時間おきに身体を動かし筋肉をほぐしたり、目を休ませたりすることが大事です。これだけでも緊張型頭痛はずいぶん起こりにくくなります。きちょうめんで生真面目な人は、うつ病だけでなく頭痛など身体の不調もおきやすいです。独りで悩みを抱えこまずに誰かに助けを求めるなど、時にはがんばりすぎない姿勢も大切ですね」。
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記事監修: 波多野良二(はたの りょうじ)
1965年、京都市生まれ。千葉大学医学部・同大学院卒業、医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。東京の城東地区に基盤を置く桐和会グループで、日夜多くの患者さんの診療にあたっている。