幹線だけでなく、地方区間にも就航
そんな優れた日本の旅客機なら一度は乗ってみたいと思う人は多いはずだが、MRJは航続距離が最長で1,700km足らずと大阪と北海道を結ぶほどの区間でしか運航できず、海外の航空会社が購入しても乗る機会は限られる。
しかし、心配はいらない。前述したANAが25機(うちオプション10機)、JALは32機を発注済みだ。MRJはエンブラエルやボンバルディアのライバル機だから、現在ANAとJALがエンブラエルとボンバルディアの旅客機で運航している区間に主に就航すると考えていいだろう。
具体的には、ANAが成田~新潟、伊丹~秋田・松山、北海道内区間、JALは子会社のジェイエアが運航する区間に主に就航させる計画で、羽田~南紀白浜、伊丹~秋田、札幌~仙台、鹿児島~南西諸島などで、ボーイング787など大型の新機材が羽田と大阪や札幌、九州などを結ぶ幹線中心に就航するのに対し、MRJは小型のため地方路線の利用者も体験する機会に恵まれそうだ。順調にいけば、2017年4月~6月には第1号機がANAに引き渡され、日本の空を飛ぶことになる。
まずは初飛行、世界に誇れる旅客機を期待
ただ、勘違いしてはいけないのは、MRJはまだ一度も空を飛んでいないということ。ロールアウト式典の際に三菱重工業の大宮英明会長が「最高レベルの経済性と快適性を兼ね備えた、世界に誇れるメイド・イン・ジャパンの製品が、ようやく夢から現実へと姿を変えようとしている」と語ったように、開発はまだ現在進行形なのだ。
設計上は理想通りに飛ぶことになっていても、実用できる旅客機として航空会社に引き渡されるまでには様々な問題や不具合が発生するものだ。中・大型機市場をエアバス社と2分するボーイング社でさえも最新鋭機787の開発途中に何度もトラブルが発生し、初飛行は予定より2年も遅れ、ロールアウトしてからも2年半近くかかった。
もし、MRJに何らかのトラブルが起き、それをカバーするために機械を追加搭載すれば、機体重量が増して燃費効率が想定を下回る。つまり、MRJの優位性を後退させるケースがないとも限らない。
さらに、販売後の継続したサービスをしっかりと確立しなければ、YS-11が初飛行からわずか10年で生産停止となり、事業自体も廃止となった過去の旅客機事業の二の舞になる可能性もある。ただ、この点についての意識は高いようで、ロールアウト式典後のインタビューで大宮会長は、航空機の"完成"を意味する型式証明の取得と同じくらい、販売後のサービス継続は重要な点だと語っている。
スケジュールに遅れが出ないのはもちろん大切だが、一方で日本人の利用者としては安全で、かつ世界に誇れる高性能な国産のジェット機を半永久的に利用できる方がうれしい。期待して待ちたい。
※文中のサイズはすべてインチ(inch)をセンチメートル(cm)に換算
※参考文献『月刊エアライン』
筆者プロフィール : 緒方信一郎
航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。