金融市場で、世界景気の先行きに対する懸念が強まってきた。10月7日発表のIMF世界経済見通しでは、2015年の経済成長率の予想が今年7月時点に比べて下方修正され、それが一因となって世界の株価が大きく下げた。安全資産としての米国やドイツの国債相場が上昇(金利は低下)し、これまで堅調だった米ドルが他通貨に対して値を下げたので、市場でリスク回避的な動きが強まったことになる。
2015年の経済見通しの下方修正が目立ったのは、日本やユーロ圏に加えて、新興国の中ではブラジルやロシアだった。米国は小幅ながらむしろ上方修正された。その点で、夏場以降の米株や米ドルの堅調を支えてきた米国と日欧との景況格差はむしろより鮮明になった。
それでも、米株が下げ、米ドルが売られたのは、株価調整に伴う経済見通しの下方リスクが高まっていると指摘されたことが大きかったのだろう。特定はされなかったが、一部の株式市場が「泡立っている」、すなわちバブルの一歩手前の可能性があるとの認識が示された。つい先日まで史上最高値を更新していたNYダウを始め、多くの株式市場で高値警戒感が強まったのは間違いない。多くのファンドの期末である11月末や年末に向けてある程度の調整はやむを得ないかもしれない。
金融市場の懸念に追い打ちをかけたのが、IMF世界経済見通しの翌日に公表された、米国の金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録だった。9月16-17日に開催された会合では、米国の景気は緩やかな回復を続けているとの認識が示されつつ、世界経済の見通しに関する多くの不確実性やリスクが指摘された。
とりわけ、ユーロ圏の景気や物価の低迷に対する懸念が示され、それが長引くようであれば、対ユーロでの一段のドル高を通じて、米国の輸出に悪影響が出る可能性があるとされた。また、中国や日本の景気軟調、中東やウクライナでの予期せぬ事態も同様のリスクとなりうるとの指摘があった。
10月末のFOMCではQE(量的緩和)が終了し、その後も来年半ばごろとみられる利上げ開始に向けての地ならしが進められるはずだ。しかし、主要国の中で最も利上げに近いと考えられる米国でさえ、それを躊躇させるような経済情勢が続くならば、世界的な政策正常化の動きは大きく後ろズレすることになりかねない。
そうしたなか、FOMCからリスク要因の一つとして「認定」された日本の当局は、手をこまねいているだけなのだろうか。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。