大人気漫画『カイジ』(講談社刊)から経済学を学べるベストセラー『カイジ「命より重い!」お金の話』(累計発行部数17万部)と、第2弾『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』(累計発行部数10万部)を世に送りだした注目の経済ジャーナリスト木暮太一さんが、同シリーズの最新作で完結編となる『カイジ「どん底からはいあがる」生き方の話』(サンマーク出版/1,500円+税)を上梓しました。発売からおよそ1カ月あまりで、すでに5万部を突破する好調な売れ行きです。今回は著者の木暮太一さんに本書のコアテーマでもある「人生を変えたいと思ったときにやるべきこと」を伺いました。
木暮太一(こぐれたいち)さん。経済入門書作家、経済ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、著書に『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)など多数 |
"カイジ"×"生き方"で伝えたかったこと
--今回の本のテーマは"生き方"とのことですが、このテーマを選ばれた理由を教えていただけますか?
木暮さん:第1弾を世に送り出したときから、本書の中で「『お金×働き方×生き方』は三位一体だ」という主張をしてきました。第1弾、第2弾には、おかげさまで読者からたくさんの反響をいただき、その中には人生相談のようなものもありました。そして「人生を変えたい」と思っている人たちが本当に多いということに気づかされました。この思いは、僕自身も10年間のサラリーマン生活の中で常に心の中にありました。「自分の人生は、こんなものなのだろうか」とか「不安な毎日からなんとか脱出したい」というみなさんの声には、僕も大いに共感できるところがありました。
人生を変える突破口として僕は、2009年にサラリーマンを辞めて作家として生きていく道を選びました。独立してもうすぐ5年になりますが、今のところは自分がやりたかったことを仕事にして生きていくことができています。僕が望んでいた生き方を実現するために、サラリーマン時代からやっていた準備とか心構えを1冊にまとめれば「人生を変えたい」と思っている人の役に立てるのではないかと思ったのです。
『カイジ』にも「人生を変える!」という言葉は何度も登場します。カイジは人生を変えるために大博打を打ちますが、僕たちも本当に人生を変えたいと思うなら、カイジのような一斉一代の大勝負に出る必要があるのかもしれません。でも、僕たちがカイジから1番学ぶべきなのは、カイジが勝つための方法をとことん考え抜いて「負けるつもりで勝負はしない」ということだと思います。結果的に相手の方が一枚上手で負けてしまったとしても、準備を重ね、自分を信じて勝負をする。そういう"心のあり方"が、人生を変えるためには1番必要なのではないかと思います。
人生を変えるために倒すべき3つの敵
--"心のあり方"がまずは大切だということですが、具体的には、どのような精神的な軸を持って人生を変えていけばいいのでしょうか。
木暮さん:本書には、僕たちが直面している社会が「人生を変える」ことを難しくしている理由をいくつかあげました。端的に言えば、人生を変えるためには、そのような社会や世の中の空気を自分で認識し、それに惑わされない決意をする必要があります。
(1)自分に対する「無能感」
まず、僕たちが心の中で打ち勝たねばならないのは「自分に対する無能感」です。例えば僕たちは「人生を変えたい」とか「好きなことをして生きていきたい」という思いを持つと同時に「どうせ自分には何もできない」とか「先が見えないのは不安だ」といった「行動を阻害するような感情」を抱いてしまいます。僕たちがこのように感じてしまうのは、努力が足りないとか、精神が弱いとかいう内的な理由だけではなく、外的な要因、すなわち社会構造の変化も大きく影響しているということをまずは知らなければいけません。自分のことを無能・無力だと思ってしまう環境を暴き、そこから脱出する道を自ら選択してほしいのです。
(2)自分より優れている人への「妬み」
「妬みの感情」に振り回されないことは大切です。なぜなら、妬んでいると人は動けなくなるからです。しかし、現代はこの「妬み」がとても生まれやすい環境が整っています。ネットの社会では、自分の人生にはとうてい関係ない、見ず知らずの人が幸せそうにしている様子までも流れてきます。大金持ちが高級リゾートでバカンスを楽しもうが、イケメンが美人をつれて話題のイタリアンレストランへ行こうが、自分の人生は、物理的には何の影響もうけていないはずです。この情報を知らなければその人たちの存在さえ知ることがなかったでしょうが、写真やつぶやきを目にすることで妬みの感情が生まれてしまいます。しかし、人は誰かを妬んでいるうちは、人生を変えるための行動ができません。妬みの感情は、自分で自分の足を引っ張っているだけなのだとわからなければ人生は変えられないのです。
(3)動かなければ"満点"という「減点思考」
日本の教育はとりわけ、減点思考で成り立っていると思います。例えば、学校のテストは上限が100点と定められています。どんなに努力してもそれ以上の点数をとることはできません。よかったところを評価する「加点方式」であれば、「満点」という概念すらなくなります。日本では「正解」に従うよう教えられており、その結果「自分ができないこと」だけが明らかになるような教育システムになってしまいました。そして、減点方式の教育を受けている大人がつくる社会もまた減点方式です。いい成果を出してもなかなか認められないのに、ミスをするとすぐに評価が下がると感じている人は多いのではないでしょうか。
こういう社会の中で最も合理的な行動は「失敗しないこと」つまり「行動しないこと」です。減点思考の社会では、未知の分野やよりレベルの高い仕事に挑戦して失敗するよりも、動かないことが"満点"のように錯覚してしまうのです。しかし、挑戦することでしか人は成長できません。減点を恐れて成長できなかった自分の人生の責任は、自分でとることになるのです。
--ありがとうございました。
私たちが人生を変えるために「無能感」「妬み」「減点思考」という3つの敵を倒すことを提示していただきました。現在は作家活動を軸にしながら、テレビのコメンテーターをつとめたり、企業向けの講演を行うなど、幅広い活動をしている木暮さんですが、サラリーマン時代は、人前に出ることが苦手だったそうです。しかし、自分自身を乗り越え、道を切り開いてきました。本書はそんな著者からの等身大のアドバイスが詰まった一冊といえます。今年の後半戦、新たなスタートの起爆剤としておすすめです。
(岡田寛子)
『カイジ「どん底からはいあがる」生き方の話』
ベストセラーになった第1弾『カイジ「命より重い!」お金の話』と、同シリーズの第2弾『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』に続く第3弾。「"お金"と"働き方"と"生き方"は、三位一体である」とシリーズのはじめから主張してきた著者が、本書の中で最後に提示する残酷な世界を生き抜くルールとは何か? 「未来は、ぼくらの手の中」――この印象的な言葉からはじまっている大人気漫画『カイジ』を、今回は「生き方の教科書」として読み解いた1冊。