厚生労働省が発表した2014年5月の有効求人倍率(新規学卒者を除きパートタイムを含む:季節調整値)は1.09倍と、22年ぶりの高さだった。建設業、外食、介護産業などで人手不足が深刻化している。
ところが、同じく厚生労働省が発表した2014年5月の毎月勤労統計調査(事業所規模5人以上)によると、現金給与総額は、前年同月比0.6%増とわずかな上昇率に留まっている。物価が上昇している影響を加味すると、実質賃金は前年比で3.8%も減少している。人手不足が深刻化していると言われながら、なぜ給与の上昇率は低いのか?
有効求人倍率は、求人数を、求職者数で割って計算する。求人数が求職者数を上回ると、有効求人倍率は1倍を超え、給与は上昇しやすくなるという。
ただし、有効求人倍率1.09倍は、あくまでも全体の平均を示しているにすぎない。内訳を見ると、給与が上がりにくい構造がよくわかる。雇用形態別の有効求人倍率(季節調整値)を見ると、パートが1.39倍と高いが、パートを除くと0.97倍と1倍を割れる。正社員だけで見ると、有効求人倍率は0.67倍と低い。この数字から判断する限り、パート時給は上昇しやすいが、正社員の給与は上昇しにくいと言える。
さらに、職業別に有効求人倍率(実数:季節調整なし)を見たのが、以下の表だ。
職業別の有効求人倍率(2014年5月)
(注)上記の数値は、平成23年改定の「厚生労働省編職業分類」に基づく区分である。季節調整なしの実数。
この表を見ると、事務的職業(一般事務など)の有効求人倍率が0.28倍と特に低いことがわかる。一方、保安(3.99倍)、建設・採掘(2.57倍)、サービス(1.85倍)、輸送・機械運転(1.51倍)、専門的・技術的職業(1.40倍)は高い。
専門的・技術的職業の内訳を見ると、建築・土木・測量技術者(3.30倍)、医師・薬剤師等(5.94倍)などの有効求人倍率が高い。サービスの職業の内訳では、接客・給仕(2.49倍)、介護サービス(1.95倍)などが高い。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。