次世代自動車の本命は、燃料電池車(水素を充填して発電しながら走る自動車)になるとの見方が増えてきた。5年前には電気自動車(電気だけで走る自動車)が本命と見られていたが、今は、電気自動車への期待は低下している。

燃料電池車が本格普及するのは、10年以上先になる。燃料電池車が普及する前に、まず、ハイブリッド車(電気とガソリンを両方使って走る自動車)やプラグイン・ハイブリッド車(家庭のコンセントから充電できるハイブリッド車)が世界的に普及するだろう。深刻な大気汚染に苦しむ中国も、ようやくハイブリッド車の導入に前向きになってきた。

これでホッと胸をなでおろしているのがトヨタ自動車・本田技研工業など、日本の自動車メーカーだろう。ハイブリッド車の主要技術は、トヨタなど日本メーカーが独占している。

トヨタは、ガソリンを燃料とする自動車で圧倒的な強みを持つだけに、世界を走る自動車が電気自動車に置き換わると、これまで内燃機関で培ってきた技術力が役に立たなくなってしまうところだった。ハイブリッド車から燃料電池車につながる技術開発では、トヨタは世界の先端を走っており、今のところ問題はない。

過去5年で、電気自動車への期待が低下した背景を説明する。世界中で普及する車になるための4つの条件について、ガソリン車・ハイブリッド車・電気自動車・燃料電池車の現状を比較した以下の表を見てほしい。

次世代自動車候補の比較

ガソリン車は、排ガスに問題あることを除けば、きわめて使い勝手のいい自動車であることがわかる。燃料充填時間は数分と短く(○)、航続距離は多くのガソリン車で500キロ程度と長い(○)。ガソリンスタンドが全国に普及しており、インフラ整備も良好(○)。ただし、世界中に自動車があふれ、新興国で大気汚染の問題が無視できなくなった今日、排ガス(×)の問題は無視できなくなった。

ガソリン車の改良版として、ハイブリッド車が有望であるのは、この表からもわかる。ただし、ガソリンを使うのは同じで排ガスが△である。

そこで、排ガスがクリーンな電気自動車に期待が集まったが、電気自動車には、燃料充填時間が長すぎる(高速充電でも30分)、航続距離が短すぎる(100キロ程度)という問題がある。技術開発によって、充電時間は短縮され、航続距離は伸びるだろうが、ガソリン車並の利便性が確保できるメドはない。

燃料電池車は、ガソリン車並みの利便性を確保できる可能性がある。現時点で残る問題は、車両価格とインフラだ。トヨタが今年度中に発売する燃料電池車は700万円程度になる見込みだ。ただし、燃料電池車の普及に必要な水素ステーションの整備はまだ進んでいない。

政府は成長戦略として、燃料電池車を世界最速で普及させる方針を出している。そのために必要なインフラ整備を支援していく見込みだ。燃料電池車でも、日本が世界をリードする展開となることを期待したい。

リスクモンスターは7日、第1回「100年後も生き残ると思う日本企業」調査結果を発表した。それによると、ランキング1位にはトヨタ自動車が選ばれた。2位は本田技研工業、3位は日産自動車であった。次世代自動車で先頭を走っている日本の自動車産業の力が十分に評価された結果だと考える。

日本の自動車産業の強さは、自動車メーカーだけで保っているわけではない。自動車部品・自動車製造用ロボット・自動車素材(鋼板や樹脂)などの周辺産業でも日本が強いことが、自動車産業を盛り立てている。層の厚い日本の自動車産業に今のところ、重大な死角は見えない。ただし、技術開発競争は、いつでも大逆転が起こる可能性があり、安心しきることはできない。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。