「ザックジャパン」浮沈のカギを握りそうな本田圭佑の「ビッグマウス」に隠された秘密とは

ブラジルで開催される「2014 FIFAワールドカップ」まで残すところ1カ月半ほどとなった。サッカー日本代表のキーマンとなるであろう本田圭佑(ACミラン)は、現地で苦戦しているイメージがあるが、その胸中に宿る思いとは一体、どのようなものだろうか。

「ミラノダービー」直前の2人の立場

ACミランの本田圭佑が初めて臨む宿敵インテル・ミラノとの大一番、「ミラノダービー」が現地時間5月4日に「スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ」で行われる。本田がインテル・ミラノに所属する日本代表の盟友、長友佑都と同じピッチ上で対戦するのは、実現すれば意外にも初めてとなる。右MFの本田と左MFの長友が対峙(たいじ)する構図は、日本でも大きな注目を集めるはずだ。

1986年生まれの2人は、日本代表のワールドカップ優勝を目標に掲げてはばからない点でも共通している。長友に遅れること約3年。公言してきたビッグクラブへの移籍を実現させた本田だが、思うような結果を残せず、救世主としての期待は瞬く間にブーイングや批判へと変わっていった。逆風の渦中でザックジャパンに招集され、3月5日に国立競技場で行われた対ニュージーランド代表戦でフル出場した直後の取材エリアで、本田にこんな質問が飛んだ。

「インテル・ミラノでゲームキャプテンを務めるなど、名門チームで確固たる居場所を築き上げている長友に学ぶべき点はあるのか」――。しばし沈黙した本田は、サッカー人生で貫いてきたアプローチを変えるつもりはないと胸を張った。

「(長友)佑都はよくも悪くも相手の懐にグッと入っていく。最初からベテラン勢にかわいがられたんじゃないかな。オレは基本的に、最初はベテラン勢に煙たがられて入っていくタイプ。それを変えるとオレじゃなくなる。オレはこのスタイルでなじむのを楽しんでいる」。

あえてイレブンと「壁」を作る本田

底抜けに陽気で誰とでも意気投合する長友に対し、本田はあえて周囲に対して「壁」をつくる。岡田武史前監督時代の2009年に日本代表へ招集され始めたころには、不動のトップ下として君臨し、チームの大黒柱でもあった中村俊輔にメディアの前で堂々と挑戦状をたたきつけている。試合中に本田が「直接FKを蹴りたい」と申し出たときには、中村との間に険悪な雰囲気が漂った。自分の実力を信じて疑わないからこそ、たとえ目上であっても主義・主張は譲らない。当時といま現在とをリンクさせながら本田は続けた。

「皆さんも知っての通り、オレは(日本)代表でも時間がかかった。そういうのを蹴(け)散らしていって、結果を残さないことには、この世界では生き残っていけない。大バクチを打っているつもりです」。

よく言われる「ビッグマウス」は、実力や実績もないのに大口をたたく人間を揶揄(やゆ)するときに用いられる。本田のビッグマウス伝説をたどれば、小学校の卒業文集にまでさかのぼる。「『Wカップで有名になって、ぼくは外国から呼ばれてヨーロッパのセリエAに入団します。そしてレギュラーになって10番で活躍します』」。12歳の少年が記した夢の一部は現実のものになった。中村への宣戦布告も然(しか)り。4年前のワールドカップ南アフリカ大会で、中村に代えて本田を軸に据えた戦術変更がベスト16進出への原動力となったことは、いまさら言及するまでもないだろう。

大久保「圭佑は悪役を引き受けている」

日本代表の一員として前回大会をともに戦った川崎フロンターレのFW大久保嘉人は、ビッグマウスと呼ばれることを厭(いと)わない本田の真意をこう解説する。

「(本田)圭佑が悪役を引き受けているんですよ。言った分だけ、自分にプレッシャーがかかりますからね。オレもそっち(ビッグマウス)系だから、すごくよくわかる。周りの選手も、もうちょっと見習うべきだと思いますけどね」。

あえて退路を断ち、プレッシャーを糧にして自分自身をさらに成長させる。ACミランでトップ下を追われ、不慣れな右サイドを命じられた現実を、本田はまるで歓迎するように不敵な笑みを浮かべていた。

「オレはトップ下のDNAを持っている。トップ下は自分の家みたいな感じで居心地はいい。でも、いまは違う環境で、そもそも違う国でやっているわけですから。居心地だけで言うのだったら(前所属先のCSKAモスクワから)動かなかったほうがいい。心地悪さをいかにポジティブにとらえるか。オレはまったく別の次元の問題をいま抱えている。そこにしっかりと向き合いながら、新境地にたどり着きたい」。

ビッグマウスは「未来への布石」

ニュージーランド戦から約1カ月後の4月7日。敵地で行われたジェノア戦の後半11分に、本田は出場12試合目にして待望の初ゴールをあげる。スルーパスに抜け出し、飛び出してきた相手GKの眼前でボールを浮かせる技ありの一撃がゴールに吸い込まれた直後だった。

ベテランのMFカカをはじめとする味方がピッチで歓喜の輪を広げただけでなく、クラレンス・セードルフ監督やベンチの控え選手までが駆け寄り、はじけんばかりの笑顔で背番号10を祝福した。テレビを見ている側の胸を熱くしたこの光景からは、本田が「煙たがられている」感はみじんにも伝わってこない。わずか3カ月でしっかりと居場所を築き上げた。本田流に言えば「大バクチに勝った」ことになる。

ビッグマウスは「有言実行」と賛辞される未来への布石。本田は自ら望んで、毀誉褒貶(きよほうへん)の激しいサッカー人生を突っ走ってきた。ならば、優勝を公言しているワールドカップはどうなるのか。答えは約1カ月半後、ブラジルの地で明らかになる。

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筆者プロフィール : 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。