和歌山県すさみ町の岸から約100mの海の中に、ポストがあることをご存知だろうか? その名も「海中ポスト」または「海底ポスト」と呼ばれている。水深10mの海の底に存在しているにもかかわらず、1999年の設置から既に投函数は3万を超えると言われているのだ。
それにしても一体誰が、何の目的でポストを作ったのか。そもそも誰がどんな目的で利用しているのか。ナゾに包まれた海中ポストの実体を、現地で探ってみた。
ポストは地元のダイビングショップが管理
そもそも海中ポストを誰が管理しているのだろうか? 地元の郵便局だろうかと思って、いろいろ調べてみた。すると、地元のダイビングショップ「クラブノアすさみ」で管理しているという情報が入ってきた。
「確かにあの海中ポストはうちで管理しています」と説明してくれたのは、スタッフの山谷裕昭さん。地元の郵便局から委託を受けて管理しているという。
山谷さんによれば、このポストもともとは平成11年(1999)に開催された「南紀熊野体験博」というイベントの開催時に、地元郵便局長の発案で実現したそうだ。つまり(当たり前だが)、ただのディスプレーではなく正真正銘のポストなのだ。
体験博が終わってもポストは生き残り、2002年にはギネスブックに「世界一深いところにあるポスト」として認定されたことで、一躍有名になった。ちなみに海中ポストは、沖縄県那覇市などにも存在する。
海中から届く年賀状、暑中見舞い
ポストといっても、誰でも投函できるってワケではない。また、水深10mを潜れるダイバーなら投函していいってことでもない。「海中ポストにハガキを投函したい人は、私たちのダイビングツアーのひとつ『ビーチダイビングコース』(6,800円~)に参加してください」と山谷さん。なあんだビジネスになっているのか……と少しガッカリするも、このツアーに参加しないとポストに投函できないというのもユニークではないか。
とはいえ、そんなシバリがあっても利用者は多いのだ。「この海中ポストどれくらい使われているんですか?」と聞いたところ、「人数は分かりませんが、年間で1,000通くらいは出されていますね」という答えに驚く。当然、これはレアなチャンス。ひとりで何通も出すからだろうが、それにしても予想以上に使われているもんだ。
ちなみに、どんな季節にどんな手紙を出す人が多いのですかという質問に対して、「夏休み」や「年賀状」という答えが返ってきた。えええ!? 年賀状!? 真冬じゃありませんか! ダイバーは寒くないんだろうか?「そりゃ寒いですよ。でもダイバーですからね。年中潜っていますよ」と力強いお答え。
なお、投函されたハガキはダイバーが回収して郵便局に届けるそうだ。その頻度はと聞くと、「投函された翌日には回収します。うちが管理していますから誰がいつ投函したかすべて分かってますからね」。確かにその通りだ。
2つのポストがあなたのハガキを待っている!
海中ポストならではの苦労も多いという。「海中なのでポストの劣化が激しいんです。海に沈めて数カ月もすると貝やら改装が付いちゃって赤くなくなっちゃうんですよね」。今は2つのポストを1年に数回、交互に取り換えているそうだ。
「ポストは昔の丸型ポストにこだわっているので、全国の自治体に『いらなくなった丸ポストください』って呼びかけているんですが、なかなか集まらないんですよね」と苦労もしのばれる。
ちなみに、海中ポストに投函するハガキは専用の耐水ハガキで、油性マジックでメッセージを記入するのだ。1通150円。ダイビングできない人はダイバーさんに投函をお願いすることもできるという。ただし、「専用ハガキはここでしか販売していません。海中ポストの目的がまちおこしなので、現地に来ていただいてここで書いていただかないと意味がありませんからね」。なるほど。
ネットの普及で何でも手軽になった今だからこそ、現地で潮の香りを味わいながら書く手紙。受け取る側も、「ええっ、海の底から!?」とビックリすること確実な、ギネス記録保持者のポストで是非あなたも!
※記事中の情報・価格は2014年3月取材時のもの