日本国民に広く親しまれる大衆魚のプリンス・サンマ。焼き魚にしたり、酢でしめたりして食べるのが一般的だが、新鮮な刺し身をドカっと載せて豪快に食べる丼があるのをご存じだろうか? 海産物王国・北海道でも、極限られた地域でしか出合えないサンマ丼は、秋に旬を迎える。
地域限定の新鮮サンマを丼で
なんといっても魚介類は旬の時期に食べるのが一番。近年では冷凍技術や流通の発達によって、多くの魚介類が場所を選ばず食べられるようになっている。とはいえ、やはり冷凍して輸送するうちに、どうしても味が落ちてしまう。そう、最高の味に出合えるのは、季節の魚介が水揚げされる港の近辺に限られてくるのだ。
根室は日本一のサンマ水揚げ基地として知られている。広大な海を回遊し、夏の終わり頃から根室の沖に集まってくるサンマ。このサンマは良質なプランクトンをたっぷり食べているため、最も脂が乗った状態になっている。
この時点で、日本を代表する立派な秋の味覚だが、人間の欲望というのは底なしだ。「せっかく最高の状態なのだから、鮮度を楽しむために生で食べたい」と考える人がいるかと思えば、「サンマはご飯と一緒にかき込むのがベスト。丼で食べたい」と考える人もいる。そしてその欲望に見事応えてくれるのが、納沙布岬(のさっぷみさき)にある「鈴木食堂」だ。
深い甘みの口あたりは生さんまならでは
荒涼としただだっ広い風景が広がる日本の再東端(離島を除く)に位置する、根室の納沙布岬。野鳥が多く集まる場所として、最近はイギリスを中心にヨーロッパからの観光客が増えている。鈴木食堂は、その納沙布岬にある、昭和の雰囲気が残る大衆的な食堂だ。
一般観光客にはあまり知られていないらしいが、オートバイでやって来るツーリングライダーたちには「聖なる食堂」として知られている。というのも、ライダーやバックパッカーなどを対象に超低価格で宿泊できるライダーハウスを併設している上に、マスターも大変親切で面倒見がいい方だからだ。
サンマ丼をメニューに取り入れたのは先代のマスター。以来、この食堂の看板メニューのひとつになっている。食べてみると、まず生サンマのしっとり甘みがある濃厚な味に驚く。丼なので一気にかき込みたい衝動に駆られるが、貴重な生の味をしっかり味わいたいという理性が勝ってしまう。
鉄砲汁と合わせて食べる幸せの時間
希少かつ極上な海の幸に恵まれた根室には、サンマ以外にもヤバいくらいおいしい魚介が数多くそろっている。鈴木食堂では、北海道全域で親しまれるタラバ、毛ガニはもちろん、近隣でしか出合えない花咲ガニまで食すことができる。カニの濃厚なだしがたまらない「鉄砲汁」は、ぜひ、サンマ丼とセットで食べてほしい。これ以上あり得ない最強タッグだ。
鉄砲汁が付いた「サンマ丼セット」の用意もあるので、こちらをオーダーするのがいいだろう。また、「活カニの刺し身」など非常に珍しい極上メニューもあるので、サンマ丼と一緒にぜひお試しいただきたい。
北海道の海鮮丼といえば「ウニ丼」「いくら丼」などが有名だが、「サンマ丼」は食べられる地域も限定されているので、北海道でも知らない人が多いという。しかし、この濃厚で豊かな味わいは、一度食べると忘れられないこと間違いなしなので、ぜひとも味わってみてほしい。
ちなみに、サンマもカニも季節により水揚げの状況が変化するので、鈴木食堂を訪れる際には、必ず事前に電話して確認しよう。
●information
鈴木食堂
北海道根室市納沙布岬32