あなたの英語は、きちんと伝わりますか? 著書『その英語、ネイティブにはこう聞こえます』でおなじみデイビッド・セイン氏は、おかしな英語を話す日本人をたくさんみかけると言います。
25年以上日本に住み、東京の下町で英会話教室を経営するデイビッド・セイン氏に、実用的な“生きた英語”を習得する上で日本人がつまずきやすいポイントと、効果的な勉強方法について伺いました。
聞いて理解する力を伸ばさなければ、スピーキング力は上がらない
――英語を習得するにあたり、日本人が苦手とするのはどんなことなのでしょうか?
実際に、英語で話すことはできるけど、リスニングは苦手だという日本人は多いと思いますね。でも、英語を話す能力だけを伸ばして、聞いて理解できる範囲を広げないと、不自然な英会話しかできなくなってしまいます。
本来であれば、聞いて理解できるのが10だとすると、アウトプットできる、つまり話せるのはせいぜいその2~3割です。だから、理解している部分を伸ばさないと、話せる範囲も伸びないのです。
「読む力をつける」ことが大切
――では、リスニングが苦手な原因はどこにあるのでしょうか?
そうですね、まずは、その言葉の意味を理解していないということが一つ。そして、もう一つは、発音が崩れると聞き取りできなくなることがあげられます。教材で聞く英語は、ゆっくり丁寧に話された英語が多いのです。でも、実際の会話では、スピードはずいぶんと速くなります。また、速く話そうとすると、音が消えたり、混じったり、発音が崩れてきますから、余計に聞き取りが難しくなり、苦手に感じてしまうのです。
――リスニング能力を上げるためにはどうすればいいのでしょうか?
読んで学ぶことが一番効果的だと思っています。今までの生徒さんを見ていると、英語を読んで理解できるのに、話せなかったり、聞き取れなかったりする人を見たことがありません。だから、英語学習全般において一番重要なのは、「読んで理解できる範囲を広げること」だと思っています。
理解できなくても、“160単語/分”の速さで読む
ここで私のとっておきの勉強法をお教えしましょう。英字新聞でも、洋書でも、ネットの情報でも、何でもいいのでとにかく読むんです。ただし、ネットの情報ならプリントアウトして読んでください。
それから、ここがポイントなのですが、速さを意識すること。辞書で分からない単語をいちいち調べながら、じっくり読むのはとてもつらい作業です。例えば、どんなにおもしろい映画でも、2時間のものをスローで、8時間かけて見るとつらい映画になりますよね。
実際、辞書で意味を確認しながら、ゆっくり読むと1分間に50ワードくらいしか読めません。確かに、受験勉強ではこれがベストです。でも、生きた英語を身につけたいと思うなら、1分間で160ワードくらいを読めるように意識するといいと思います。
ネイティブが英語をすごく早口で話すと、だいたい1分間で200ワードくらい話しています。通常の会話でも、1分間で160ワード話そうとするとまだ早口な印象ですね。ゆっくり話す人なら120~100ワードくらいで話します。
そうやって速く読むことで頭に入ってくる発音もネイティブに近づきます。例えば、「that」と書いてあったとします。ゆっくり読むと、「that」と最後の「t」までしっかり読むでしょう。でも、速く読もうとすると「tha」と読んでしまいます。速く読むことで、英単語がどのように崩れるか分かるので、リスニングの上達につながっていくのです。
まずは「見たことはあるが、意味が分からない単語」を増やす
意味が分かっても分からなくても、とにかくそのスピードで読むんです。そして、ここがまた重要なのですが、そのときに、分からない言葉は例えば赤ペンなどでマルで囲みながらチェックして読むんです。
初めて見た単語を調べて覚えようと思ってもなかなか覚えられません。それに、中にはネイティブも覚えていないような、一生使わないと思われる単語が出てくることもあります。
いちいち調べるのではなく、分からない単語にはとにかく○印をつけて、先に読み進めていくようにします。同じ単語がほかのところにも頻出するようであれば、大事な単語ということが分かります。あるいは、文脈から、「こういう意味かな」と推測することもできます。
そこまで分かってから単語の意味を調べればいいのです。「推測した通りだな」と思えばそれでいいし、「いや違ったようだな」でもいいんです。大事なのは、正しいか正しくないかではなく、推測すること。こうすることで、単語をただの単語としてではなく、気持ちと結びついた言葉として覚えることができるんです。
また、目にする単語は理解度によって
「I know I know」=よく理解している単語
「I know I don’t know」=見たことはあるが、意味は理解していない単語
「I don’t know I don’t know」=見たこともないし、意味も分からない単語
の3つに分類されます。
「I don’t know I don’t know」からいきなり、「I know I know」になることはありません。「I know I know」になるためには「I know I don’t know」を通らなければなりません。だから「I know I don’t know」、つまり、先ほどの勉強法でいう、○で囲んだ言葉を増やすことがまずは大事なんです。
語彙は、“狭く深く”覚えるのが効果的
――いろいろな文章を読んで、単語を増やした方がいいのでしょうか。
おすすめなのは、1つの分野について深く覚えることです。簡単な単語を広く覚えることよりも、どこかに深いトピックがあるほうが英語は上達します。何でもかんでも話せるようになる必要はありません。
実は、金融関係の言葉でも100単語くらい知っていれば、深いところまで話せるんです。それに、ある分野で覚えたことは、ほかの分野でも必ず役立ちますよ。
また、単語リストを使うのはあまりおすすめできません。文脈の中での単語の使われ方を知らなければ、実際の会話では使えないからです。英文を読みながら単語を調べていけば、どんなシーンでどんな単語を使うべきか自然と身に付いていくんです。
また、TOEICなどのために語彙(ごい)を増やそうと勉強される方もいますが、私はTOEICのスコアを上げるためだけの勉強はあまりおすすめしません。点数を上げる勉強方法はもちろんありますが、高得点を取ったからといって実際に使えるようになるわけではないのです。TOEICはあくまで能力を測るためのツールだと考えてください。それに、自分が興味のある分野の英語を勉強しているだけでも、TOEICの点数は自然と上がるんですよ。
必ずしも“ストレートな表現”が好まれるわけではない
――よく、日本人独特のあいまいな表現は外国人に嫌われると言いますが、それについてはどう思いますか?
私は、日本人はそこまであいまいじゃないと思っています。考え方が全然違うということをあまり意識しないほうがいい。アメリカ人でもストレートに「Yes」「No」を言うと嫌がられることもあります。また、英語にも回りくどい表現はありますし、ストレートに言ってはいけないこともあります。
国民性があると思うのですが、ほかのアジアの国の人は、英語を使う時にすごくキツい表現をします。それもあって、アメリカでは、アジアの女性のことを「dragon lady」と呼んでいるんです。これは「恐ろしいアジアの女性」という意味。あまり、ストレートに話をしようということばかり考えていると、日本の女性も「dragon lady」と呼ばれてしまうかもしれないですね。
――ビジネスシーンでの、日本人の英語の失敗エピソードを教えてください。
Aさんがクライアントの外国人を爆発的に怒らせてしまったことがありました。クライアントの支払いが遅れていて、Aさんはメールで「早く支払ってください」と英語で送ったんです。それを見たクライアントは大激怒。でも、Aさんにはなぜそんなに怒っているのか分からないんです。
わたしは、文面を見せてもらって「なるほど」と思いました。 「I demand you pay by Friday.」と書いてあったんです。 「demand」とは強い要求の言葉なんです。「支払え!」と聞こえたんですね。本当なら、「request」や「ask」を使うべきでした。
しかも、メールだったというのが悪かったですね。対面で顔を合わせていたら、相手もAさんの表情や英会話の習熟度から推し量って、「間違えたな」と思ってもらえたと思います。
この失敗は、「demand」を使うときの感情を知らずに使ったから、つまり、気持ちから切り離された単語として覚えていたからこういう間違いになってしまったのです。でも、私は失敗してもいいと思っています。だって、この失敗された方は絶対に「demand」の使い方を忘れないでしょう。
最近は、英文で書かれたメールをたくさん読まなければいけないという方も増えていると思います。その場合は、どんな使い方を送ってきた方がしているのかを学ぶんです。例えば、届いたメールの一文を、エクセルでデータベース化しておくのもいいですよね。
ある程度データがたまってきたら、送る前にデータベースをチェックして、そこにない文章や単語を発見したら、送信する前にもう一度見直した方がよいですね。
自信がなくてもとにかく「やってみる」ことが重要
――英語を勉強している人へ、メッセージをお願いします。
英語を使って会話するなかで、ミスして、それを指摘されたり、笑われたりして自然と覚えていくというのが、英語を覚える一番の近道だと思います。
だから、失敗することを恐れないで欲しいんです。「自信がないから話せない」なんて言っていたら、一生英語を話すことはできません。なぜなら、10年やっても20年やっても自信がつくということはないんですから。自信をつけるのはあきらめましょう! 私も、日本語を勉強して30年たちますが、一度も自信をもったことなんてありません。
「自信がついたら話す」ではなくて、自信がなくても話せばいいんです。「英語を話せるようになったら海外に行きたい」ではなく、行けばいいんです。これを読んでくれた皆さんには、自信のなさが、英語を覚えるのを妨げる壁にならないようにしてほしいです。
●お話を伺った人
デイビッド・セイン先生 米国生まれ。カリフォルニア州アズサパシフィック大学で社会学修士号取得。証券会社勤務を経て来日し、翻訳・通訳など多岐にわたって活躍。豊富な教授経験を生かし、数多くの英語関係書籍を執筆。日英翻訳した作品には、世界的ベストセラーの翻訳などもある。英会話本の執筆をしながら、東京・文京区にあるエートゥーゼット英語学校の校長も務める。
●著書
『爆笑! 英語コミックエッセイ 日本人のちょっとヘンな英語』アスコム 『mini版 感動する英語!元気がでる英語!』アスコム 『ネイティブに伝わるビジネス英語の書き方』アスコム など多数
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