オスピスの取締役、井上義教氏は、元銀行の為替ディーラー。いわゆるプロ中のプロトレーダーだ。前回は、そのプロが上梓した『FXチャートリーディングマスターブック~為替のプロが実践する本当に勝てる技を大公開!』(井上義教・株式会社オスピス著、ダイヤモンド社刊、2940円)の内容について紹介した。

今回は、サイバーエージェントFX社のセミナーや同書の中で井上氏が伝えきれなかった、チャートの見方、FXに対する考え方について、「プロと一般投資家の違い」をテーマに、インタビューした内容をお伝えしたい。

プロだけが知っている"秘密の指標"ってあるの?

トレーダーなら誰でも、井上氏のような本物のプロトレーダーに聞いてみたいことがあるだろう。それはプロのトレーダーと一般投資家のトレーダーの違いはどこにあるかということだ。ひょっとして、プロだけが知っている指標があるのではないか、プロだけが使っているトレード手法があるのではないか。

「そんなことはありません(笑)。使っている手法も同じですし、頭の中身も、多分みなさんと変わらない。銀行内のトレーダーがたくさんのモニターを並べて仕事をしている場面がテレビなどで報道されますから、勘違いされるのかもしれませんが、あれは上司から隠れるための壁なんです(笑)。画面に映し出されているのは、なんの変哲もない普通のチャートですよ」。

井上氏は、プロのトレーダーと一般投資家のトレーダーの違いについて、「使っている手法も同じですし、頭の中身も、多分みなさんと変わらない」と話した

しかし、プロは着実に利益を積み重ねていき、一般投資家は買ったり負けたりを繰り返していく。その違いはどこにあるのだろうか。

「プロはものすごく単純に考えます。よく、値段が下がったから買いを入れて、値上がりを期待するという方がいらっしゃいますが、プロは絶対そうは考えません。値段が下がったら売りなんです。値段が下がるということは、マーケットが下方向に進んでいるということですから」。

この「下がったら買って、上昇を期待する」というのは逆張りの発想だ。そろそろ値ごろ感がでてきたから、指値注文を入れておこうなどと考える人は多いだろう。しかし、井上氏は、プロは絶対にそういうトレードをしないという。

「ポジションを入れるときは、成行き注文で順張り。これが絶対の基本です。マーケットの動く方向に盲目的についていくだけです。ここがプロと一般投資家の大きな違いかもしれません」。

つまり、相場が上がっていくのだったら、成行きで買いを入れる。相場が下がっていくのだったら、成行きで売りを入れる。一方で、利益確定をするときは逆張り的に行う。上がってきたものが反転しそうになれば売り決済、下がってきたものが反転しそうになれば買い戻し決済だ。

「利益を確定する場合は、指値でかまいません。もし、それ以上伸びるのであれば、再びポジションを取り直せばいいのです」。

プロのトレード法に特別なものがあるわけではなかった。むしろ、素直でシンプルなトレード法といってもいいだろう。順張り成行きでポジションをとり、逆張り指値で利益を確定する。

「これができていないと、FXでは勝つことはできません。見ていると、このルールがぐちゃぐちゃになっている方が多いように思います」。

「ロスカット」でプロと一般投資家に大きな違い

もう一つのプロと一般投資家の違いがロスカットだ。多くの専門家は、ポジションをとるときに、あらかじめ一定の値幅で、逆指値を入れておくことを勧めている。あらかじめロスカットのラインを決めておき、動かさないのが鉄則だ。もちろん、井上氏もこの方法を勧めるが、プロは少し違った考えをするという。

「ロスカットを値幅で考えるということはしません。マーケットの動きを見ていて、自分の思惑と違ったと思った瞬間にポジションを切りますし、耐えられると判断すれば、一時的にかなりの評価損になっても持ち続けることがあります。ですから、プロはロスカットも、成行き注文が基本なんです。ただ、これはかなり難しい判断ですし、プロでもうまくできる人は限られています。実は、私もどちらかというと、ロスカットは苦手な方なんです(笑)。ですから、一般投資家の方は、値幅で考えて、ポジションを持つ時に、あらかじめ逆指値を入れておくという方法がいいと思います」。

「プロはロスカットも、成行き注文が基本なんです」と語った井上氏

実をいえば、プロでも勝率という点では5割というのが普通なのだそうだ。

「中には勝率9割という天才トレーダーもいます。でも、それはほんとうにまれな、数百万人に一人の天才です。私から見ても、なんでそこでポジションを入れるの? とびっくりするようなトレードをします。でも、私たち凡人は、こういう方を参考にしようと思っても無理ですし、参考にしてはいけません」。

「チャートリーディングに磨きをかける」ことが大切

では、プロは勝率5割で、どうやって勝っているのだろうか。答えは単純で、「負けるときは小さく、勝つときは大きく」である。

ただ、この「勝率5割、損小利大」は簡単には実現できない。たとえばロスカット20pips、利益確定20pipsであれば、適当にポジションを入れても勝つか負けるかの確率は50%。しかし、利益も損失も同じになり、手数料の分だけ損をしてしまうことになる。

では、ロスカット20pips、利益確定40pipsではどうか。これで勝率5割なら、1トレードあたり平均10pipsの利益が得られることになる。しかし、こういう皮算用は成立しないのだ。なぜなら、もし価格がランダムに動くと仮定すると、下方向に20pips動く確率と、上方向に40pips動く確率は同じではなくなる。

正規分布に従うので、ほぼ2 : 1の確率、勝率33%となる。つまり、負けトレード2回、勝ちトレード1回となり、トータルの損益は結局0になる。確率とは結局そうなるようにできているのだ(この話が難しくて、ピンと来ないという方は、下方向に10pips動く確率と、上方向に100pips動く確率が同じになるかどうかを考えていただきたい)。

では、プロはどうやってこのような確率論を超えていくのだろうか。

一つは、チャートリーディングに磨きをかけて、勝率33%を50%にあげることだ。その秘密は、「マーケットの進む方向に逆らわない、成行き順張り」というものにあった。詳しい手法については、井上氏はサイバーエージェントFX主催のセミナーで解説しているし、冒頭に挙げた井上氏の著書「FXチャートリーディングマスターブック」の中でも詳細に解説されている。

しかし、もう一つ、プロが当たり前に行っている方法がある。次回は、そのトレード手法について、詳しくお話を伺う。