あの阿部サダヲが父親役と聞いて驚いた。彼の映画というと、初の主演作『舞妓Haaaan!!!』でのはじけっぷりが記憶に新しいが、今回の『ぼくとママの黄色い自転車』は様子が違う。髪型は普通だし、オーバーアクションは一切ない。少年の冒険を静かに見守る優しい父親を好演している。オファーが来たときの感想から、自身の少年時代の思い出、いまの子供たちに対する気持ちまで、グループ魂のツアーで多忙な最中、話を聞くことができた。

『僕とママの黄色い自転車』ストーリー

沖田大志(武井証)は小学3年生の少年。父親(阿部サダヲ)と二人で暮らしているが、毎週留学先のパリから届く母(鈴木京香)の手紙を楽しみにしていた。ある日、少年は母がじつはパリにいないのではないかという疑念をもつ。謎を解明するため、横浜の自宅から小豆島へ向かうことにした少年。そこに待ち受けていたものは過酷な現実だった…。

いつもと違う阿部サダヲをどう観るか

――いつものキャラの立っている異色な役柄とはちがいますね。置かれている状況こそ特別ですが、今回は普通のお父さん役。オファーがきたときはいかがでしたか

阿部「うれしかったですね。皆さんが僕に持っている印象はそういうのが強いと思うんですよ、阿部サダヲっていう俳優さん……俳優さんって言ってる(笑。言い直して)、俳優に対しては。実際、普段テンションがずっと高いと思われている事も多いんです (笑)。僕もだんだん年をとってきて、そろそろ子供がいる役や家族の話もやりたいと思っていた時期だったので、すごくうれしかったです」

テンション高めの阿部サダヲは封印し、息子の成長を見守る父親を好演。ちなみにこの映画、文部科学省選定(少年向・家庭向)です

――父親を演じるにあたって、普段の阿部さん自身の顔が出た部分はありますか

阿部「武井(証)くんという役者さんが相手ですので、普段子どもと接している時とは違いますね。武井くんみたいな子供がいたらいいなと思いますが。すごくしっかりしてるんですよ、武井くん。俳優としてすごいなと。そういう意味では勉強になりました。(撮影時の)7月の小豆島って暑かったんですけど、(武井くんは)『辛い』とか文句を言わないんですよ。頭が下がりましたね」

妻役は鈴木京香。阿部は自分との見た目のアンバランスさを考え、「京香さんのような、すごいきれいな女性がこの夫にひかれた訳みたいなものを、なんとなく納得してもらいたいなと思っていました。お客さんが見て、なんでこいつだよ、と思うよりは、ま、しょうがないかという感じに思ってもらえたらいいなと」

家族が話し合うきっかけに

――この映画を特にどういう人に見てもらいたいですか

主人公と同じように、小学生時代トラックの荷台に勝手に乗ったことがあるという。友達同士でやったそうだが、「2個目の信号で降りました。そんなには行けなかった…(笑)」

阿部「主人公の大志くんと同じくらいの小学生が見て、ちょっと憧れてほしいです。僕が小さいときに『ガキ大将行進曲』という映画を見て、すっげーかっこいいなと思って、それを真似して山に登ったりしてたんですね。

外に家族でごはんを食べに来ているのに、ずっとゲームをやっているのとか見かけるじゃないですか。そういうのを見ると、ちょっとゾクゾクするんですよね。ゲームを1時間やってもいいけど、その代わり1時間自転車をこいでほしい(笑)。だから、(主人公を)いいなと思ってほしいですね。

この作品は家族で話し合える映画だと思います。たとえば、これをきっかけに犬を飼うか飼わないかという話もできるでしょうし。犬……、飼ってほしいんですよね。小学生のときに飼ってた犬って思い出になりません? 僕、小学6年生くらいのときに飼ってた犬が、すっごくいい思い出になっているんですよ」

――ちなみに阿部さんのご自宅では何かペットは飼ってらっしゃるんですか

阿部「これだけ犬って言ってるんですけど、うち、猫飼ってるんですよね(一同爆笑)。犬がダメだったらしくって。猫もかわいいですけどね」

舞台と映画、それぞれへの臨み方

――舞台役者としてスタートして、いまは映画やテレビドラマにも出られていますが、違いを意識している部分はありますか

阿部「芝居のテンションを変えているつもりはないんですけど、舞台は、カット割がないというのがいちばん大きいんじゃないかと思います。生で全部見られているというところがいちばん違いますよね。お客さんの反応もすぐ感じられますし。

映画って、でき上がってから反省するところもあったりするんです。でもやり直せませんからね。だから、映像のほうが、集中力がいると思うんです。映画は作品を観て新しい発見があるからおもしろいですよね。ああ、ここで音楽が入ってくるのかとか、何回も見ちゃうんです」

犬好きのエピソードを披露していたが、顔は猫系なのでは。切れ長の丸い目が印象的

8月22日、東京・新宿バルト9ほか全国ロードショー

(C)「ぼくとママの黄色い自転車」製作委員会

PROFILE

あべ・さだを

千葉県松戸市出身 1970年生まれ
'92年より松尾スズキ主宰の「大人計画」に所属し、同年舞台『冬の皮』でデビュー。その後着々とキャリアを重ね、テレビでは『木更津キャッツアイ』 (TBS)『医龍』(フジテレビ)などに出演し、広く知られる存在になる。宮藤官九郎らと結成したバンド『グループ魂』ではボーカルを担当。紅白歌合戦の出場も果たす。'07年には『舞妓Haaaan!!!』で映画初主演。同作品のスタッフが再結集する映画『なくもんか』が11月14日公開予定である