『交渉人』(1998年)『スター・ウォーズ エピソード1/ファントムメナス』(1999年)のサミュエル・L・ジャクソン、『アポロ13』(1995年)のエド・ハリス、『ゴーストライダー』(2007年)のエヴァ・メンデスなど、名優たちが豪華共演を果たした映画『ザ・クリーナー 消された殺人』が7日、公開された。監督は、『ダイ・ハード2』(1990年)、『エクソシスト ビギニング』(2004年)などのアクション監督として知られるレニー・ハーリンが務め、新境地のサスペンスに挑戦した作品だ。

『ザ・クリーナー 消された殺人』

今回、主人公の職業である特殊清掃を日本で専門に請け負う会社「キーパーズ」の代表取締役・吉田太一氏に、同作への思いや見どころを語ってもらった。

『ザ・クリーナー 消された殺人』ストーリー

元警官のトムの職業は、犯罪や事故現場の血痕などを取り除く特殊な清掃請負業。ある日、いつものように大邸宅の殺人現場の痕跡を完璧に除去するが、その清掃の依頼主は、なんと架空の人物だった。そして、邸宅の主・名士のジョン・ノーカットが行方不明と報道される。市警察汚職収賄事件を巡る陰謀の影がちらつくなか、ついにはトム自身が殺人の容疑をかけられる。真相を探る彼の前に暗い口を開けるのは、自らの警官時代の消し去れぬ過去…。誰が殺したのか? そして、誰がトムをはめたのか? 登場人物それぞれが、誰もが持つ秘密を人生に抱え込み、事件の真相を追う中で浮き彫りになっていく。単純なミステリーではない、人間ドラマが絡み合うサスペンスとなっている。

特殊清掃請負業とは?

「キーパーズ」の代表取締役・吉田太一氏

トムが勤める特殊清掃請負業は、殺人や事故の現場を清掃する産業="CTS Decon"(Crime and Trauma Scene Decontamination=犯罪および精神的外傷となる現場の除去、浄化)と呼ばれ、日本で専門的に請け負うのが、吉田氏が経営する「キーパーズ」である。

そして、同作に信憑性を与えるのは、臭いに至るまで痕跡を除去してゆくCTS Deconのリアルな描写だという。吉田氏は「血のかたまり方や、掃除のやり方など、映画に出てくる殺人現場の模様は、実際に私たちがいつも体験している現場に本当によく似ています。私は、この仕事を初めて10年近くになりますが、機会があるのなら、是非ともこの作品のモデルになったアメリカのCTSの企業を訪ねて、もう一度、勉強しなおしたいくらいのリアルさです」と意気込み、プロも驚くほどの出来栄えになっている。

依頼人から脅されたことも

年間、1500件から2000件の依頼がくるという吉田氏だが、トムと同じように恐い事件に巻き込まれたことがあるという。「数年前、いつものように依頼がきて、いつものように出動して無事作業を終えました。しかし、数日経って、ヤクザから電話が掛ってきて、依頼された部屋に置いてあったはずの物がないと脅してきたことがあります。巻き込まれたって感じですね。この時はさすがに参りました。実際、依頼人とも連絡が取れなくなって、結果的にこの映画のように架空の人物からの依頼になりました」と、特殊な職業ゆえの苦難を振り返った。

吉田氏は、そんな仕事を「大変ですね」と語る一方、「遺族の方からいただく、心からの『ありがとう』の言葉で救われています。この心からの感謝の気持ちで、うちの社員も人間としても大きく成長していくのが見えるんです。みんな『ありがとう』の言葉に支えられています」と、人間の死に向き合う仕事に、苦悩しながらもやりがいを感じている。

また、今後の進むべき道として「やりたいことはあるけど、夢とか目標とかそういう形ではなく、もっと具体化したものを考えています。自分たちは、実際、人が亡くなって、その方が最後の時を過ごした環境を掃除する。その人がどんな人で、どんなことをしていて、どんなものに興味があり、どんな生き方、考え方をしていたのかということまで、遺品や現場の中から伝わってくるのです。そういうものを見ていると、孤独死や自殺などをなくしていきたいし、いかに生きるかが大切だと伝えていきたいですね。それは、この仕事をしている上での義務でもあると思うのです」と、生きることへの思いをぶつけた。

残された血液には故人の叫びがしがみついている

最後に、吉田氏は、同作の見どころについて「固まってなかなか剥がれない血液、そこには故人の叫びがしがみついています。 ひざまずいてその痕跡を消す仕事、それは死者の尊厳を守り遺族の精神的負担を緩和しながらこの世から葬る最期の役割なのです。同じ職種に誇りを持って生業とする私にとって、この映画はとても生と死の意味を世間に伝えるための一つの重要な作品だと思います」と、作品に込められたメッセージを語ってくれた。

『ザ・クリーナー 消された殺人』(配給:リベロ)は、銀座シネパトスほかで公開中。