本田技研工業(以下、ホンダ)が5日に発表した新型ハイブリッド車「インサイト」は、200万円を切る価格で登場し、「軽くて小さく、取り回しがしやすく、走りがいい、そして価格が安くて燃費もいい」というクルマを求めたユーザーの心をつかみそうだ。このインサイトの登場に合わせるかたちで、トヨタ自動車(以下、トヨタ)は現行型「プリウス」と5月発表予定の3代目新型との併売を発表し、インサイトを迎え撃つかまえだ。こうした情勢をホンダはどう捉えて販売していくのか。ホンダの関係者に聞いてみた。

「プリウスを脅威だとは思っていない」と語る新型「インサイト」発表会見での福井威夫社長

インサイトの価格は189万から221万円までで、現行プリウスの最下位グレードが233万1,000円。インサイトの最上級グレードとも10万円の差がある。会見では、ホンダの福井威夫社長が「低価格のハイブリッドカーは当社が最初となり、プリウスを脅威だとは思っていない」と語り、インサイトとの競合が予想される"廉価版プリウス"に対して強気の姿勢を示した。

主動力のエンジンに補助動力のモーターを組み合わせたホンダ独創のハイブリッドシステムが、ハイブリッドカーの走りの楽しさに磨きをかけている

5月発表予定の新型プリウスの燃費は、インサイトのそれよりもやや優れているようだが、ホンダは、インサイトの「走り」の優位性を強くアピールして販売していくようだ。同社四輪営業統括部の井口郁氏は「仮に現行のトヨタ『プリウス』がインサイトの価格帯に合わせてくるとしても、『自信を持って売ってくれ』と営業マンには伝えている。インサイトは軽量・コンパクトが売りで、ある意味ハイブリッド車らしくない走りが楽しめるクルマだ。だから、ひとクラス上のサイズのプリウスをあまり意識していない。プリウスとは戦う領域が違うとも思っている」と語った。

バッテリーボックスは、「シビック ハイブリッド(2006年モデル)」比で、部品点数を約半分にし、軽量小型化・コスト削減に貢献している

また、同社関係者は「プリウスとは競合しない」と口を揃える。本田技術研究所第4技術開発室の大島尚氏は「独立モーターを2つ搭載し制御しているプリウスに対し、ホンダはエンジン主体で、エンジンの中に組み込んだ1台のモーターがトルクをサポートするかたち。だから、乗り味はガソリン車に非常に近い。そういう面ではプリウスと競合するというよりは、一般のコンパクトカーたちが比較対象になるのではないか」と話す。同・井口氏は想定するインサイトのユーザー層について「5ナンバーコンパクトセダンのユーザー層、ホンダでいうとフィットに近いユーザー層になり、幅広い層から支持されると思う」と読んでいる。

画像のトヨタ「プリウスS」は238万3,500円。「プリウスの価格下げについては、200万円が限界だろうと見込んでいる」と話すホンダ関係者もいる

ハイブリッド車だけで見ると、トヨタが多くの種類をラインナップしているのに対し、ホンダは現状、インサイトと「シビック ハイブリッド」の2台のみ。同社広報部の梅村真樹氏は「最大の武器は価格。国内で年間6万台、全世界で20万台の販売を目標にしているので、分母を増やすことには貢献はするが、全世界でのハイブリッドカーのシェアとしては小さいかもしれない。ただ今後もバリエーションは増やしていくつもりだ。ちなみに2010年ぐらいにCR-Zを出していく予定だ」とコメント。プリウスは、2007年に約28万台を全世界で売っているのに対し、インサイトは目標を年間20万台と掲げているのだ。

年間20万台の内訳は、北米10万台、欧州4万台、国内6万台

競合するクルマはプリウスではなく、あくまで既存のガソリン車のコンパクトカーだというホンダの見方に対し、ユーザーはどのクルマを比較対象として購入を検討するか、春以降の動向が気になるところだ。