--TC-SSTとディーゼルと組み合わせは?

竹越:TC-SSTが使えるかどうかはトルクだけが問題になります。回転数としてはガソリンエンジンのほうが圧倒的に高いので、ガソリンエンジンのトルクに耐えられればディーゼルエンジンでも大丈夫です。ディーゼルエンジンの回転数はせいぜい4000rpm程度ですけど、ガソリンエンジンは7000とか8000回転まで回りますので。

ディーゼルは同じ排気量ならガソリンエンジンよりトルクが高いわけですが、今は燃費に対する要求がすごく厳しいので、トルクが大きいぶん排気量をどんどん小さくして、ガソリンエンジンなみのトルクを得るという方向です。さらにターボチャージャーで過給すればもっと少ない排気量でトルクは伸ばせます。トルクの上限が制限されるだけで、ディーゼルだから厳しいということはありません。

--今後TC-SSTを展開しそうな車種は?

竹越:いろいろ考えていますし、ディーゼルとの組み合わせも考えています。ディーゼルのほうが実は相性がいいんです。

TC-SSTの変速の行程なんですが、1速で走っていたら、次に2速に変速して1、3、5速側のクラッチを切って、2、4、6速側のクラッチを繋ぐという、いわばクラッチのたすきがけをするんです。この場合、両づかみすると(2つのクラッチを両方ともつないでしまうと)ギヤが二重噛み込みになってロックしてしまいますので、両づかみしないようにクラッチを切るわけですが、このときにエンジンのトルクを少し下げています。具体的には、エンジン側にトルクや出力を下げる指令を出して、スロットルを閉じたりイグニッション時期を遅らせたりしますが、実際にはこれらの指示を出してもトルクが落ちるまでにタイムラグがあるんです。しかしディーゼルだと、スロットルがないので燃料の量を変えればすぐにトルクが落ちてくれる。ですからTC-SSTのような自動MTではディーゼルの方が相性がいいんです。

弊社のコルトは、欧州ではシングルクラッチの自動MTを出しています。クラッチは通常のものと同じで、まさに人間の足をロボットで置き換えただけなんですけど、これも圧倒的にガソリンよりディーゼルのほうが楽なんです。一番難しいのはエボリューションのようなターボチャージャー付きガソリンエンジンですね。ターボのラグだけでなく、インテークマニホールドの空気のラグがあるので、トルクを絞るという指定を出してから実際にトルクが落ちるまでのタイムラグがあるので厳しくなります。

もちろん見込み制御もしていますが、ディーゼルならぎりぎりまで待てる。ですからTC-SSTが1速から2速にまさに切り替わろうとしているときに、お客様がアクセルを戻してしまうと、今加速しようとしてるのか、減速しようとしてるのかわからない。そのギヤにとどまったほうがいいのかアップシフトしたほうがいいのか迷うんです。それをギリギリまで待てるのがディーゼルで、ガソリンはある程度早く始めざるをえないので、途中でドライバーの気が変わられるとそのままシフトアップしてまた戻るというようなことをやります。これがぎくしゃくの原因になります。

こうした見込み制御では、1速2速より5速6速のほうが楽にできます。1〜2速はエンジンの慣性もまだ影響が小さくて、すぐに回転数が落ちてしまいます。見込み制御を始めても実際にクラッチが繋がるときには回転数が落ちてしまい、変速のショックが発生してしまいます。5〜6速は高速で走っているわけですから、慣性がかなりついて回転数の変化が少ない。それで推測しやすくなるわけです。

将来的にはプロドライバーのクラッチワークが目標

--将来的な改良点の目標などがありましたら教えて下さい

竹越:低速がちょっと苦手だったり、減速でシフトが遅いという点に対してはもっと味付けや制御も変えて、より早くよりなめらかにしていきたいと考えています。開発レベルでもまだ走り込まないと分からないところがありますので、もっとデータを増やして、改良しようと思っています。クルマが停止している状態から発進する時に、アクセルの踏み加減でクラッチをどのようにつないでいくかはマップと呼ばれるもので制御しています。人間の行為は無限に変化しますが、コンピューターには容量の限界がありますので、開発時に蓄積したマップの中からもっとも必要とされるであろうマップを3〜4枚用意しています。しかし、MTに比べるとやはり遅くなってしまうんです。

人間は目でメーターを見て、耳でエンジン音を聞き、体の感覚で加速を感じて、それをアクセルやクラッチ、シフトワークに置き換えています。路面の判断、スリッピーな路面であるとか、上りや下りの斜面もそうですね。もちろんクルマのコンピュータも判定をしていますが、人間が行なう反応とはスピードが全然違います。コンピュータは500msとか、ある程度持続してデータを取って"車速の上がり方が遅いから今は上りだな"という判定をしますけど、人間は目でみて瞬時にわかってしまいます。コンピュータはクラッチワークの速度が早いのでそこで補っているわけですが。

しかし、運転されるのはサーキット慣れたような方ばかりではないですよね。エボリューションでも、普通のドライバーでしたら、マニュアルモードよりもオートモードで走っていただいたほうが、サーキットや山道でも絶対に速く走れます。クラッチワークに慣れてない、普段そういった走行をしたことがないという人がTC-SST搭載車に乗るとポンとタイム上がります。将来的には、プロドライバーのクラッチワークをTC-SSTに置き換えたいと思っています。

聞き手・撮影:平 雅彦 (WINDY Co.)