最近はハリウッドで日本のアニメを実写化する話も珍しくなくなってきた。一部アニメファンに、なま温かーく見守られてる「オラに元気を分けてくれ! 」でおなじみのアレ(伏せ字にする必要ないけど)とかね。ただ、そんな超メジャー作品はともかく、中には日本人には意外に思える実写化の話もある。
この『スピード・レーサー』もどちらかといえば意外に思う系の作品。ご存じ『マッハGoGoGo』の米国でのタイトルだ。タイトルはみんな知ってるかもしれないけど、何しろ最初の放映は今から40年前で、まだアニメが「テレビマンガ」なんて呼ばれていたころの作品。日本だと、20代以下の人には主題歌以外はピンと来ないんじゃないかな。ところがアメリカでは何度も再放送されていて、昔も今も全米のお子様の心を捕らえて放さないらしい。そんなお子様がそのまま大きくなったのが、この映画の監督/脚本を務めるウォシャウスキー兄弟。あの『マトリックス』3部作を世に送り出した2人だ。『スピード・レーサー』の実写化は、彼らが熱望して実現した。
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ツヤッツヤのマッハ号にヘルメット、そしてこの濃い顔を見たら一時停止! |
というわけで、このエピソードとウォシャウスキー兄弟のアニメオタク度をご存じの人なら、どういう方向性の映画かわかるだろう。ひと言で言うと、『マトリックス』の撮影アイデアと最近の映像技術を投入して作った「実写ベースのアニメ」。とにかくディテールがすごくて、『マッハGoGoGo』を見ていた人には涙モノの仕掛けが、これでもかというほど盛り込まれてる。
まず登場人物がアニメとクリソツ! 主演のエミール・ハーシュはちょっとひねた兄ちゃん系だが、アニメと同じ青シャツと赤スカーフ、キツキツのヘルメットがよく似合う。親父と弟、そしてペットのチンパンジーはアニメそのまんま。そして主人公のガールフレンド役にクリスティーナ・リッチ、母親役にはスーザン・サランドンと意外な大物がキャスティングされているが、これがまたうまくはまっている。クリスティーナ・リッチの人間離れした巨大な目は、シリアスな作品で見るとホラーにしか見えないけど、アニメキャラとしてはちょうど良いことを発見したよ。
そして謎の多い覆面レーサー役にはTVドラマ『LOST』の医者役で知られるマシュー・フォックス。このほか、韓流歌手のRAIN(ピ)が日本人レーサー役? で出てたり、真田広之がゲスト出演している。……どうでもいいけど、RAIN(ピ)ってどう読むの?
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この青地に白がポイントのシャツ! 原作に忠実ですなあ。右のRAINは日本人役、とは言いながらスーツにはハングルが…よくわかんないっすね |
ストーリーは単純明快。主人公の名前は「スピード」姓は「レーサー」、他の職業には就けない名前だ(笑)。ちなみに日本版『マッハGoGoGo』の主人公の名前は、三船 剛。時代を感じるねえ。父親がレースカー設計者で、家族+住み込みのメカニックでこぢんまりとレーシングチームを組んでいる。主人公は父親が作った「マッハ号」(米国では「マーク5」)を駆り、レース界を牛耳ろうとする悪の社長に対抗して活躍するのであった。
『マッハGoGoGo』にはいくつか「お約束」があって、この映画でもそれはキッチリ守られている。まずレースといいながら、ちゃんとしたコースもない「道なき道」を走ったりする。そしてレース参加者は主人公以外悪人だらけ(笑)。ぶつけて来るのは当たり前、ホイールから槍みたいのが出てきたり、毒ヘビを投げてくるヤツまでいる。あと、なぜかレース中に主人公が一度は車を降りて悪者と戦ったり、陰謀を暴いたりするのもお約束。そんなことレースの後にやれよ!
見どころはマッハ号に仕込まれた数々のギミック。タイヤに装甲がついたり、回転ノコギリで障害物を切り倒したりする。これがまたちょうどその機能を使うのにピッタリな状況になるのよ。そして一番使えるのが「オートジャッキ」だ。車体から飛び出すジャッキが地面を蹴って車がジャンプする機能なんだけど、このオートジャッキの"キュンキュンキュン……"という動作音が『マッハGoGoGo』ファンにはたまらない。これがアニメとまったく同じサウンドで再現されていた。さすがウォシャウスキー兄弟、わかってるねー!
レースのシーンはCGとコマ割り、スローを多用した美しい映像で、まるでゲームのよう。そう、これってまんまファミコンの「F-ZERO」じゃん! 思わずコントローラ持つ手つきになっちゃったよ。もちろんウォシャウスキー兄弟の必殺技「ブレットタイム」も使われている。それも極めつけのシーンで! ここは見逃すなよ、兄弟!! そして映画全体を彩る極彩色の造形がアニメ感を増幅させる。陰を多用した『マトリックス』とは対照的だ。エンディングがまたニクイ演出で『マッハGoGoGo』の日本版、英語版の主題歌をリミックスしたテーマが流れる。間奏のトランペットを聞いているうちに涙ぐんじゃったよ。
といったように、この映画は全編『マッハGoGoGo』へのリスペクトに満ちあふれた作品なので、見た人によって評価は分かれるだろうね。まず『マッハGoGoGo』に思い入れのある人、懐かしさを感じる人は文句なしに見るべし! ぜったいツボは外さない。そして『マッハGoGoGo』に予備知識のない人は、そこそこ楽しめるけど、せめてアニメ版のオープニング(主題歌)くらいは見てから行ってほしい(YouTubeに上がってます)。これを予習しているだけで、ウォシャウスキー兄弟の細かすぎる仕掛けがわかって数倍楽しめる。一番困るのは『マトリックス』みたいなのを期待している人。押井守とウォシャウスキー兄弟の演出の共通点は……なんてのに思いを馳せるのは無理です。
日本語吹替版ではKAT-TUNの赤西仁と上戸彩が声を当ててるらしいけど、『マッハGoGoGo』の声優もメインキャストはほぼ存命で、まだ現役で活躍しているんだから、ぜひオリジナル声優バージョンも見てみたい。もちろん覆面レーサーの声はキンキン(愛川欽也)で!
スピード・レーサー
天性のハンドルさばきでライバルたちを追い抜き、かわしながらレーストラックを疾走する、その名も"スピード・レーサー"(エミール・ハーシュ)。生まれながらのレーサー、スピードは攻撃的で本能的で、なにより怖いもの知らず。そんな彼が、家族と愛するカーレースを守るために、"クルーシブル"(厳しい試練)として知られる危険なクロスカントリー・ラリーに挑む!
キャスト: エミール・ハーシュ / クリスティーナ・リッチ / マシュー・フォックス / スーザン・サランドン / ジョン・グッドマン / カーク・ガリー / ポーリー・リット / ロジャー・アラム / Rain
監督 : アンディ・ウォシャウスキー / ラリー・ウォシャウスキー
サロンパス ルーブル丸の内ほかにて全国ロードショー中
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