『シェフの哲学 食の探求から三つ星レストランの運営まで』

白水社はこのほど、パリの3つ星レストラン「ル・グラン・ヴェフール」(ただし『ミシュランガイド・フランス2008』では二つ星へ格下げ)料理長・ギィ・マルタン氏の著書『シェフの哲学 食の探求から三つ星レストランの運営まで』を発売した。出版を記念して2月29日、東京・丸の内にある「東京會舘」にて記者会見及び、マルタン氏による一夜限りのガラ・ディナー("特別"なディナーの意)イベント「ギィ・マルタンの世界」が開催された。

※3月6日にフランスで発行された『ミシュランガイド・フランス2008』では、ル・グラン・ヴェフールは2つ星へと格下げされている

記者会見の様子。写真右から3人目がギィ・マルタン氏

ル・グラン・ヴェフールはナポレオンが訪れ、作家のアレクサンドル・デュマやコレットも通った歴史的な名店だったが、1983年以降17年間にわたって星を落としていた。しかし1991年にギィ・マルタン氏が料理長に就任した後、2000年には3つ星を獲得。同氏によって短期間で3つ星に返り咲き、世界中の美食家に再び注目されることとなる。

東京會舘が会場になった理由

さて、今回の記者会見及びガラ・ディナー会場には東京會舘が選ばれているわけだが、実はここには深い理由がある。東京オリンピックの開催年である昭和39年、「東京オリンピックを契機として、東京にやってくる外国人に真のフランス料理を提供する」という計画があり、生粋のフランス料理を提供するにふさわしい店として選ばれたのが東京會舘だった。3カ月限定で東京會舘に登場したフランス料理店「イル・ド・フランス」では、料理の魔術師とも言われたレイモン・オリヴェ氏が腕を振るった。

実はオリヴェ氏がフランスで経営していたのが、ル・グラン・ヴェフールなのだ。オリヴェ氏は1948年、ル・グラン・ヴェフールを「マキシムMaxim's」の支配人から買い取り、オーナーとなっている。イル・ド・フランスが閉店した後も東京會舘とオリヴェ氏との親交は続く。若手スタッフが渡仏し、グラン・ヴェフールで修行することもあったという。グラン・ヴェフールの現料理長であるギィ・マルタン氏の代になってもその絆は強く、今回のイベント会場として東京會舘が選ばれたといった背景がある。

記者会見にてギィ・マルタン氏は、「本書の中では40のレシピを公開しています。これらを、私の人生の歩みと共に紹介しています」と説明。マルタン氏は、1957年フランス・サヴォア地方の生まれ。同書では、サヴォアの小さな村で祖父母や父母と共に過ごした幼少年期の食体験から、仕事の合間に5,000ものレシピを粘り強く試作したという修行時代、そしてル・グラン・ヴェフールにて3つ星を獲得、その後に至るまでが触れられている。まさに、食文化に対するマルタン氏の考え方を語りつくした一冊となっている。さらには、ル・グラン・ヴェフールの厨房組織の実態や、納入業者との付き合い方、食材選択基準等が具体的に書かれており、マルタン氏の自伝としてだけではなく、レストラン経営書としても楽しめる内容だ。

『シェフの哲学 食の探求から三つ星レストランの運営まで』について、「これは友情の輪の中で完成した本です。心から感謝しています」とギィ・マルタン氏