オープンRAN(Radio access network無線アクセスネットワーク)による海外での5G通信設備事業開拓に向け積極的に取り組んできたNECですが、オープンRAN、ひいては5Gの整備に対する機運が想定よりも盛り上がらず、依然苦戦を強いられています。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。
状況を打開するためにNECが選んだのはNTTドコモとの合弁で設立した「OREX SAI」ですが、この選択によってNECの海外事業は大きな成果を上げられるでしょうか。
依然苦しいグローバル5G事業、「OREX SAI」に活路
携帯電話基地局などの通信インフラ機器を、特定の企業に依存することなく導入できるようにする「オープンRAN」が、携帯電話業界内で注目されて久しいですが、その立ち上がりは5Gと同じく、想定よりかなり鈍いというのが正直なところ。そして、この立ち上がりの鈍さに苦しんでいるのがNECです。
携帯電話会社向けの通信機器事業がほぼ国内に閉じていたNECは、オープンRANの機運が高まるとともに、海外メーカーに市場を抑えられている国外への開拓へ力を入れるようになり、欧州の携帯電話会社と実証を進めるなどして実績を積んできました。
しかし、オープンRANの商用導入に向けた機運が思うように高まらず苦戦が続いており、オープンRAN事業の軸を無線装置などのハードウェアから、ソフトウェアやサービスに移すなど軌道修正を図っているというのは第94回で触れた通りです。
それから約1年が経過した現在、NECが発表した2023年度通期決算から、オープンRANを主体とした「グローバル5G」事業の状況を確認しますと、2023年度で調整後営業損益が108億円という実績にとどまっています。
赤字幅は減少しているものの、同社が成長領域と位置付ける他の事業が順調に成長しているのと比べると、依然として非常に厳しい状況にあることは間違いないようです。
では、そうした厳しい状況の中にあって、NECグローバル5G事業を成長させる上でどのような取り組みを進めているのかというと、それはNTTドコモとの合弁事業化ということになるでしょう。
実際、NECは2024年2月26日、「MWC Barcelona 2024」に合わせる形でNTTドコモとの合弁会社「OREX SAI」を立ち上げることを発表しています。
NTTドコモはオープンRANの経験を持たない携帯電話会社が導入をしやすくするよう、オープンRANに必要な機器やソフトウェアの調達、構築からサポートまでを1つのパッケージとして提供する「OREX Packages」をサービス提供することを明らかにしています(第105回参照)。そこで、OREX Packagesの提供を担うべく、設立されたのがOREX SAIなのです。
2社が合弁に至ったのには、オープンRANの海外展開に向けて、両社が抱えている課題を解決する狙いがあったようです。
NTTドコモはオープンRANに関する研究開発や、国内でのオープンRAN導入で実績を持っていますが、それをOREX Packagesで商用展開するとなると、各地の携帯電話会社で実際に導入や検証などをする基盤が必要になってきます。
一方、NECは自身でのオープンRAN展開が思うように進んでいませんが、海外でさまざまなIT関連事業を展開しており、世界各地でシステムインテグレートに関する豊富な実績と基盤を持ちます。それら両社が持つ強みを生かせば、双方の課題解消につながることから、合弁でOREX SAIを立ち上げるに至ったようです。
通信品質問題で事業回復は海外より国内が先行
そして、NECがこれまでオープンRANの事業軸をソフトウェアやサービスに切り替えるとしていたのは、まさにOREX SAIのことを指しているとのこと。すでにNECは、楽天モバイル子会社の楽天シンフォニーが基盤を提供しているドイツの1&1などに向けて、オープンRAN対応の基地局を提供していますが、そうしたものを除くと今後NECのグローバル5G事業は、OREX SAIが主軸になるものと考えられます。
では、OREX SAIによって、NECのグローバル5G事業はどこまで伸びると見ているのでしょうか。先の決算説明会資料では、グローバル5G事業は2024年度で営業利益が20億円を予想しており、2025年には160億円を目標としていますが、あまり大きな伸びを見込んでいる様子は見えません。
NEC 取締役代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏は「海外(グローバル5G)については2023年度から大きく増やしていない。ほぼ横ばいから10~20%の伸びと、コンサバに見ている」と話しています。
その理由はOREX SAIの立ち上げに伴い従来のプロジェクトの見直しを進めているためで、コスト削減による事業の立て直しがまだ続く様子を見せています。
その一方で、国内の事業なども含めたテレコムサービス全体では、2024年度に売上収益が前年度比で320億円、営業利益が431億円の増収増益を見込むとしています。その理由は2023年度に生じた一過性の費用計上による減益の影響がなくなることに加え、国内の通信事業が回復することを見込んでいるためだと、森田氏は説明しています。
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NECは2024年度のテレコムサービス事業に関して増収増益を見込むが、回復の主体は通信品質向上のため、国内通信事業の投資が増えることが見込まれることから、グローバル5G事業は依然厳しい見方を崩していない
森田氏は具体名は言えないとしながらも、国内のある特定の顧客が「通信品質の問題や帯域の問題などを含め、ネットワーク増強が必要な状況になっていると理解している」と説明。
2023年度に減少した投資額が、2022年度の水準にまで戻ると見込まれることが利益回復要因となるようです。こうした状況を見ると、NECの海外通信事業開拓の命運はOREX Packages、ひいてはNTTドコモにかなり依存する形になったといえますし、その先行きも見通しが厳しい状況にある印象を受けます。
一連の戦略が功を奏して事業を回復させ、グローバル5G事業を軌道に乗せられるかどうか、まだまだ予断を許さないというのが正直なところではないでしょうか。