2023年に経営破綻し、レノボ・グループに事業承継されたことで復活を果たしたスマートフォンメーカーのFCNT。しかし、同社の事業の中でほぼ引き継がれることなく、終了に至ったのが企業向けのソリューション事業です。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。
無線通信技術を生かしてローカル5G向けのデバイスを積極的に開発するなどして、ソリューション事業の開拓に力を入れていたFCNTですが、同事業だけが継承されることなく、終了してしまったのはなぜでしょうか。
唯一承継されなかったソリューション事業
2024年5月、スマートフォンメーカー各社から相次いで5G対応のスマートフォンが発表されているのですが、そうした中の1社にFCNTがありました。
FCNTといえば、富士通の携帯電話事業を引き継いで2018年に独立した国内のスマートフォンメーカーであり、携帯電話会社との販路を多く持つのに加え「らくらくスマートフォン」や「arrows We」などのヒットモデルを排出するなどして、安定的な事業運営をしてきました。
しかし、政府のスマートフォン値引き規制で高額なモデルの販売が振るわなくなり、利益が少ない低価格モデルに重点を置く戦略を取ったところ、記録的な円安や半導体不足が直撃して部材が高騰。その結果、利益が出せなくなって経営に行き詰まり、2023年5月に経営破綻するに至っています。
その後、同社傘下でスマートフォンなどの機器製造を担っていたジャパン・イーエム・ソリューションズ(JEMS)は、エンデバー・ユナイテッドや京セラらがスポンサーとなって事業を継続。
米国のスマートフォンメーカーであるオルビックが同社へのスマートフォン製造を委託することを明らかにするなど、現在も事業を継続しているようです。
一方のFCNT本体は、しばらくスポンサーが現れず事業継続が危ぶまれたのですが、その後に中国のレノボ・グループがarrowsや、らくらくスマートフォンなどのプロダクト事業と、「らくらくコミュニティ」などのサービス事業を承継することを発表。
2024年5月16日の新製品発表イベントでは、新機種の「arrows We2」「arrows We2 Plus」を発表しています。
ただ、唯一FCNTの事業の中でどこにも承継されることなく、終了に至ってしまったのがソリューション事業です。
FCNTは「富士通コネクテッドテクノロジーズ」という名称で富士通から独立した当初から、プロダクトとサービスに加えて企業向けのソリューション事業を新たな事業の柱にすることを打ち出しており、長年のモバイル通信事業で培った無線技術を生かし、IoTや企業向けのデジタル化などの事業開拓を進めていました。
とりわけ国内で5Gの商用サービスが始まった2020年以降、同社はソリューション事業の拡大を本格化。自営の5Gネットワークを構築できる「ローカル5G」への参入を打ち出し、ローカル5Gに対応したスマートフォンやエッジAIカメラなどを開発するとともに、さまざまなパートナー企業と協力して5G関連のソリューション開拓を進めていました。
5Gビジネスの低調で当てが外れたか
ただ、ソリューション事業はレノボ・グループや、他の企業が事業承継することもなく終了するに至っています。実際、先の新機種発表イベントにおいて、ソリューション事業がどうなったのか筆者が質問したところ、同社の代表取締役社長である田中典尚氏は「ソリューション事業はレノボ・グループに承継いただかなかったので、基本的に部隊は解散した」と答えていました。
一部、パートナー企業に資産を譲渡するケースなどもあったようですが、事業は完全に終了してしまったようです。
また、エッジAIカメラなどの企業向け5Gデバイスなどに関しても、在庫はすべててパートナー企業などに譲った上で開発も終了しているとのこと。今後そうしたデバイスを開発する予定もないとしており、デバイス関連の事業もスマートフォンなどのコンシューマー向けを主体としたプロダクト事業に集約してしまっているようです。
なぜ、FCNTのソリューション事業は終了に至ってしまったのでしょうか。考えられる要因の1つとして、まず事業を承継するレノボ・グループの事業との親和性があまりなかったことが挙げられます。
そもそもレノボ・グループの事業は、パソコンやスマートフォンなどのデバイスが主体です。もちろんレノボ・グループも企業向けのパソコンやサーバーなどは開発していますし、モトローラ・モビリティのスマートフォンを企業向けに販売することなどは実施していますが、エッジAIカメラのようなIoT関連デバイスはあまり開発していません。
さらに言えば、Sierとなってソリューションを提供したりすることなどもあまりしていません。それゆえFCNTの事業を承継するに当たっても、自社の事業とマッチしないソリューション事業は承継するメリットがなかったといえるでしょう。
そして、もう1つの要因として考えられるのが、FCNTのソリューション事業自体開拓の途上で事業の柱に育ち切っておらず、他社にとって承継するほど魅力的な事業に映らなかったことです。
FCNTは5Gのビジネス活用の機運が盛り上がったことを契機に、ソリューション事業の開拓を強化していましたが、その5Gのビジネス活用自体が低調で商用利用がほとんど進んでいないというのは、本連載で何度か触れている通りです。
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2020年にオンラインで実施された「CEATEC 2020」に出展していたFCNT(当時は富士通コネクテッドテクノロジーズ)の資料より。5Gビジネスの拡大を見越し、ローカル5Gのネットワーク構築や対応デバイスの開発などに積極的に取り組んでいた
それゆえFCNTとしても5Gのビジネスソリューションに注力したものの、その当てが外れたと言わざるを得ない状況に陥っていたのではないかと考えられます。
しかし、FCNTはローカル5Gの立ち上がり当初から、5Gソリューションの開拓を積極的に推し進めてきた企業の1つで、なおかつ5Gのデバイスを実際に開発できるメーカーとして非常に貴重な存在でもありました。それだけに、同社のソリューション事業がこのような結果を迎えてしまったことは非常に残念でなりません。