2022年、新年明けましておめでとうございます。さらに激動の状態が常態化していますが、しなやかに、強かに行きましょう!!

2021年を通して世界情勢を支配したコロナ禍であるが、人類とこの厄介なウィルスとの戦いは、残念ながら今年も継続される見通しである。ウィルス側も存続をかけた変異を続けながら、人類がその終息に向けて繰り出す幾多の手立てに、必死で生き残りのための抵抗を続けている感がある。昨年に続いて、今年も業界の変化は加速化の要素満載である。その変化のもととなる支配的なファクターをいくつか考えてみた。

カーボンニュートラルのトレンドはビジネスの中心に据えられる核心課題

2021年、米国の雑誌TIMEは世界に最も影響を与えた「今年の人」にTeslaのCEOであるElon Muskを選んだ。その理由は「気候変動の危機に対する解決策を生み出し、最も大胆で破壊的な変革を進めた」、という説明になっている。

カーボンニュートラルを目指すSDGs、BCP、CSRなどの要件は、今年の企業活動の核心課題となるのは明らかだ。年明け早々に米国で開かれたCESでは、その年の業界を牽引する話題が披露されたが、今年のCESの主役はEVであった感がある。長い間世界にインパクトが大きい発信をすることがなかった日本の代表企業Sonyが、EVへの参入を表明したのは非常に印象深い。ここ数年EVへの参入が噂されるAppleも、今年はどこかの時点で正式発表をすることが予想される。

Intelも業界初となる自動運転レベル4の実現について2024年という具体的な道程を発表した。「ゲームチェンジ」や「パラダイムシフト」などの修辞で、ここ数年報道の中心的話題であったEVは、今年はその役者がそろい踏みする年となりそうだ。

しかし、EV世界を主導するこれらの役者は、従来の自動車ブランドに加えてAppleやSonyのような電子機器ブランド、GoogleやAmazonのようなプラットフォーマー、ハード・ソフト基盤を支える鴻海、マグナ・シュタイヤーなどのEMS、Bosch、デンソー、Continentalなどの部品ブランドからIntel、Qualcomm、NVIDIAのような半導体ブランドへと非常に多彩である。

昨年の半導体供給問題が、業界サプライチェーンの急所を露呈させたように、EVビジネスの要件は、協業関係にあるサプライチェーンの各ブランドが1つも欠けることがなく目標を共有することにある。後続集団に大きな差をつけて抜け出したTeslaを各社が猛追する構図は、今年いっぱいは変わらないだろう。

米中技術覇権競争による地政学的リスク、巨大テック企業が加速する社会の分断

益々露骨になった米中の技術覇権競争は、今年も業界人を悩ます地政学リスクを代表する大きな政治的影響要因となる。かつては政治問題から最も遠い位置にいた技術集団と言えども、その技術の優位性が主権国家の核心課題となったとたんに政治的な意味合いを増す。

米国ニューヨークに本拠地を置く調査会社ユーラシア・グループが最近発表した「Top Risks 2022:今年最も懸念されるリスク」報告書がNo.1に挙げたリスクが中国の「ゼロコロナ政策」であったことは衝撃的だった。

中国の武漢で発生したと言われる(発生源は確定されていないとしても)新型コロナウィルスの封じ込めに個人情報の収集と、各個人が所属する都市レベルの徹底的なロックダウンで完全にウィルスを排除する「ゼロコロナ政策」は成功したかに見えた。しかし、感染力を増した新種株の度重なる出現で今年はその政策が破綻するというシナリオである。世界最大の市場である中国がコロナに侵されれば、エンド市場もサプライチェーンも壊滅的な打撃を受け、経済に対する影響は計り知れないという指摘は、現在我々が生きている世界に身近に潜む「不都合な真実」を年初から目の前に突き付けた印象がある。

ユーラシア・グループが二番目のリスクとして挙げたのが「Technopolar World:巨大テック企業による世界の分断」である。“Technopolar”というのはもちろんユーラシア・グループ自身による造語である。GAFAに代表される巨大プラットフォーマーはコロナ禍中にありながら急速な成長を遂げている。貪欲な他企業のM&Aによって競合技術を取り込むことで急成長する巨大プラットフォーマーのこうしたビジネスの手法には、各国当局が規制圧力をかけているが、一番大きな問題は、彼らのカスタマーベースが国家の枠と全く関わりなく拡大・巨大化している事実である。

SNSで強大な影響力を持つFacebookは米当局・議会による追及をしり目に、Metaverse(仮想空間)にそのビジネス基盤を急速に移している。各企業が展開するMetaverseにおける秩序や倫理については、最終的にはその世界を提供する企業に頼るほかはなく、西欧世界で400年弱継続されてきた主権国家という概念からすれば、「無政府状態」ということになる。

技術集団が国家間の地政学的リスクにさらされるのと同じくらい、各国家はこれらの強大なパワーを持った技術プラットフォーマー達によってもたらされる無政府状態のリスクにさらされる可能性があるのは、現代における大きなパラドックスではある。

重要度を増すサプライチェーンへの意識

空前の半導体供給不足となった2021年は、それがどの業界であっても、半導体を含むサプライチェーンによって担保されているという事実をあぶりだした。

米バイデン大統領は昨年2月に、半導体供給網強化に関する大統領令署名の際に、マザーグースの寓話から引用した非常にわかりやすい説明をした。「釘一つないために蹄鉄が作れなくなり、蹄鉄がないために馬にも乗れなくなった。行きついた先は王国の滅亡だった。現代の蹄鉄の釘とは半導体だ」、と訴えたバイデン大統領は半導体の地産地消を目指す巨額の補助金を提示し、日本も含む先進各国がこれに続いた。冬に向かって使用頻度が高まったガス給湯器の保守・修理が、半導体部品の不足により滞ったなどという信じられないような話がネットを駆け巡った。モノがさらに賢くなり、人間生活が便利になる現代では、コンピューター、通信機器、産業機械、自動車、家電、医療機器といった身の回りのすべてのモノのサプライチェーンは複雑かつ相互に関連しあって構築されている。半導体のサプライチェーン1つをとっても、デバイスから最上流のポリシリコンに至るまで、各プレーヤーたちが高度にグローバルに関連しあって成り立っている。

  • ポリシリコン

    半導体デバイスの原料であるポリシリコン

2022年は昨年にも増して加速的な変化が予想される。しなやかに、しかし強かに行きたいものである。