東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は4月13日、従来の等価原理検証実験に用いられてきた「非対称構造のねじり天秤」が、ニュートリノ質量に近い「サブ電子ボルト領域」における極めて質量の軽い条件のダークマターの直接探索に極めて有効な手法となることを理論的に示したと発表した。
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提案されたダークマター探索の模式図。ねじり天秤は、中空の球殻と中身の詰まった実球を組み合わせた幾何学的な非対称構造を持つ。極めて軽いダークマターが頻繁に散乱することで生じる微小な加速度を、この非対称性を利用して検出するとした。(c)Kavli IPMU(出所:Kavli IPMU Webサイト)
同成果は、Kavli IPMUの松本重貴教授、同 ジエ・シェン東大特別研究員/JSPSフェローらの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する旗艦学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
宇宙のエネルギー組成は、欧州宇宙機関(ESA)のプランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射の観測結果から、宇宙を膨張させる未知のダークエネルギーが約68.3%、通常物質(バリオン)との相互作用が極めて小さく、ほぼ重力のみで相互作用するダークマターが約26.8%、そして通常物質が約4.9%であることが判明している。
常に無数のダークマターが人体を貫通していると考えられているが、相互作用が皆無に等しいため、世界中で行われてきた実験でもいまだ直接検出には至っていない。従来の探索は、最有力候補とされる「WIMP(弱く相互作用する重粒子)」のような、ダークマターが重い質量を持つと仮定してそこに焦点を当ててきた。WIMPモデルは理論と観測の整合性が高いものの、依然として検出の端緒がつかめていないことから、近年はより広範な質量域への探索が活発化している。
ただ、ニュートリノに近いサブ電子ボルト領域の超軽量な質量については、直接検出が困難だという課題がある。既存の液体キセノンなどを用いた実験は原子核との衝突による散乱信号を狙うが、軽量な粒子では信号が微弱すぎるからだ。そこで研究チームは今回、ダークマターが極めて軽い場合に生じる、ある重要な物理的効果に注目したという。
それは、ダークマターの質量が十分軽い場合、銀河内での数密度が非常に高くなり、巨視的な物体との散乱弾面積も「コヒーレント効果」によって大幅に増大し得るという点だ。コヒーレント効果とは、粒子がバラバラに作用するのではなく、足並みをそろえて振る舞うことでまとめての効果が出て、結果的に相互作用が強く見えるということである。要は、個々の散乱の影響は微小だが、膨大な数の粒子が頻繁に散乱することで、全体として測定可能な加速度を生じさせることが理論的に明らかにされたのである。
さらに、慣性質量と重力質量が区別できないという等価原理検証で用いられる「ねじり天秤」が、この加速度に対して高い感度を持つことも判明。最先端のねじり天秤実験を分析した結果、本来は等価原理検証用だった装置が、0.01~1eVの質量域におけるダークマターと原子核の相互作用に対し、現在最も強い制限を与え得ることが証明されたとした。
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既存の等価原理検証実験から得られたダークマターと核子の散乱断面積に対する制限(色付きの実線)。黒い破線は、将来的な非対称回転ねじり天秤実験で期待される感度を示している。(c)Matsumoto et al.(出所:Kavli IPMU Webサイト)
今回の成果は、精密測定実験がダークマター探索に新たな視点をもたらすことを示している。従来の地下実験では困難だった低質量領域に対し、ねじり天秤は補完的なアプローチとなり得る。今後は装置の感度向上や設計の最適化により、ダークマターの正体解明と素粒子宇宙論の発展に大きく寄与する可能性があるとしている。