RTX社レイセオン部門が手掛けている艦載用のアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー、AN/SPY-6(V)ファミリーについては、本連載でも過去に何回か取り上げてきた。その中には、マサチューセッツ州アンドーバーにある製造拠点の貴重なルポも含まれているのは御存じの通り。
そのレイセオンでNaval Power部門のNaval Systems & Sustainment、つまり艦載システムとそれの維持管理を担当している副社長、ジェニファー・ゴーティエ(Jeniffer Gauthier)氏によるメディア・ラウンドテーブルがあった。そこでの話を中心として、最新の艦載用デジタル・レーダーがどんなメリットをもたらしてくれるかについて、改めて書いてみる。
RMAとは何か?SPY-6の基本構造を解説
繰り返しになってしまうが、AN/SPY-6(V)ファミリーの中核となっているコンポーネントは、RMA(Radar Modular Assembly)という。一辺が、おおむね2フィート程度のサイズを持つ立方体である。
この中に、TRIMM(Transmit/Receive Integrated Multichannel Module)と呼ばれるパーツが24個、組み込まれる。個々のTRIMMは送受信モジュールを6個ずつ内蔵するから、ひとつのRMAは24×6=144個の送受信モジュールを持つ計算になる。
SPY-6はどう展開されている?4つのバリエーションの違い
このRMAをいくつ組み合わせるか、そして固定式のアレイ・アンテナを3~4面使用するか、1面だけとして回転させるか、という違いにより、4種類のバリエーションがある。
- AN/SPY-6(V)1 : RMA×37個のアレイを4面、固定式。アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦に搭載
- AN/SPY-6(V)2 : RMA×9個のアレイを1面、回転式。AN/SPS-48の後継として空母や揚陸艦に搭載
- AN/SPY-6(V)3 : RMA×9個のアレイを3面、固定式。コンステレーション級フリゲートとフォード級空母の2番艦以降に搭載
- AN/SPY-6(V)4 : RMA×24個のアレイを4面、固定式。アーレイ・バーク級フライトIIA駆逐艦へのバックフィット用
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サンアントニオ級ドック型揚陸輸送艦「リチャード M.マックールJr.」(LPD-29)に取り付けられたAN/SPY-6(V)2。従来の同級が搭載していたAN/SPS-48と比べると小さいが、性能はこちらの方がはるかに上 Photo : Raytheon
なぜ共通化でコストが下がる?運用・整備のメリット
AN/SPY-6(V)4が(V)1よりも少ないRMAになっているのは、既存のAN/SPY-1D(V)と同じスペースで収まるようにするため。そういう違いはあるが、使用するRMAはみんな同じもので、ソフトウェアも、シグナル・プロセッサなどのバックエンド機材も共通化できる。
もちろん、異なるバリアントの間で同じRMAを共用していれば、予備品の種類は削減できるから維持管理のコスト抑制につながる。また、教育・訓練の面でも負担が減る。同じコンポーネントを共用する複数の派生型を生み出すことで、トータルのライフサイクルコストを抑えられる。
なお、アーレイ・バーク級フライトIIAにおけるレーダー換装作業は、2026年の夏から始まる予定で、対象となる艦は「ピンクニイ」(DDG-91)。このフネ、AN/SLQ-32(V)7 SEWIP (Surface Electronic Warfare Improvement Program)ブロックIII電子戦装置を載せた「シマリスのほっぺ」に絡んで、以前に本連載で取り上げたことがあった。
建造中止でも無駄にならない?SPY-6が転用できる理由
FFG(X)ことコンステレーション級フリゲートは、さしあたり10隻、ゆくゆくは20隻を建造するはずだったが、スケジュール遅延とコスト上昇に見舞われた挙げ句、2025年の末に3番艦以降の建造中止が決まった。
では、そこに載せるはずだったAN/SPY-6(V)3は宙に浮いてしまった……のかというと、そうはなっていない。
同じRMAを共用しているから、載せる艦を失ったAN/SPY-6(V)3で使うつもりだったRMAは、他の用途の、異なるバリアント(派生型)に転用できる。
ズムウォルト級への搭載は可能?課題は何か
そこで転用先として、ズムウォルト級駆逐艦の名前が取り沙汰されているらしい。ただし現時点で、正式に換装が決まったわけではない。
ズムウォルト級は現在、レイセオン製のAN/SPY-3というフェーズド・アレイ・レーダーを搭載している。これはXバンドを使用しており、AN/SPY-6(V)のSバンドよりも周波数が高い。低高度の経空脅威や潜望鏡の探知に加えて、艦対空ミサイルの誘導・射撃指揮も担当するため、MFR(Multi-Function Radar)と呼ばれる。
ただしズムウォルト級の場合、広域捜索レーダーAN/SPY-4 VSR(Volume Search Radar)の搭載を断念したため、AN/SPY-3のソフトウェアに手を加えて、能力をいくらか広域捜索に振った。ちなみにフォード級空母は、AN/SPY-3 MFRとAN/SPY-4 VSRの両方を載せている。
そのAN/SPY-3のアンテナ・アレイは縦2.7m×幅2.1mというサイズなので、一辺が2フィートのRMAを3段×3列組み合わせるAN/SPY-6(V)3と大差はない。だから、設置場所の物理的な話だけ見れば、換装は可能という話になる。しかも、アレイの数は同じ3面構成である。
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ズムウォルト級の2番艦「マイケル・モンスーア」(DDG-1001)。上構上部の、赤円で囲んだ部分がAN/SPY-3 MFR。その下に不自然な空きスペースがあるが、本来はここにAN/SPY-4 VSRが付くはずだった 撮影:井上孝司
ただし、アーレイ・バーク級とズムウォルト級では指揮管制システムが異なる。そのため、レーダーだけポン付けして済むわけではなく、指揮管制システムとのインテグレーション作業が必要になる。そのコストと手間に見合ったメリットがあると判断されれば、換装の話が具体化するかもしれない。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。

