はじめに

電気信号の挙動を見る目的で生まれたアナログ・オシロスコープはそれまでのどの装置より、電気信号に対する観測力に優れ、多くの産業の発展に貢献しました。デジタル・オシロスコープへの変化過程において「波形を数値化する」測定力を持ち、オシロスコープはさらに大きく進化しました。その後もユーザからの要求に応え続けることにより、オシロスコープは「流れるデータの内容を吟味する」解析力さえ備えるに至りました。用途の観点から見ても、「波形を観測しその性質を知る用途」に加え、「不具合原因を探るデバッグ用途」、「波形の良否判定による自動化用途」、「規格適合性を知るコンプライアンス用途」と、オシロスコープの用途は拡大してきました。

今日のオシロスコープは、もはや波形を見るだけの装置と考えてはいけません。オシロスコープに満載された豊富な機能を活用するだけで、皆様の仕事を大きく効率アップさせることのできる魔法のツールです。「知らなかった機能を使う」ことで効率アップが図れます。この連載では一歩進んだオシロスコープの活用法をご紹介します。ぜひ仕事の効率アップに役立ててください。

なお、これらの機能の有無と操作メニューは、機種(型名)に依存します。ある機種においては機能が装備されない場合もありますし、操作メニューが異なる場合もあります。ここではTektronix(日本テクトロニクス)のDPO/MSO4000/3000/2000シリーズ・オシロスコープを中心にお話します。他のメーカのオシロスコープについても、多くの機種で同様の機能がありますので、大いに参考にしてください。

1. 自己校正とアクティブ・プローブ校正

(1)「自己校正」と「アクティブ・プローブ校正」とは?

正しい測定をするのはなかなか大変です。測定のノウハウを知りオシロスコープを「正しく使う」ことが必要です。測定対象とオシロスコープを接続する「プロービング」もノウハウの塊です。しかし、その前にやっておかねばならないことがあります。これをやらずにノウハウを駆使しても無意味です。確度の高い測定ができないからです。それを可能とする機能は「自己校正」や「アクティブ・プローブ校正」と呼ばれます。オシロスコープやアクティブ・プローブの内部回路をベストな状態に調整する機能で、簡単な操作で実効できます。

(2)いつ、どのように実行する

室温が変化した場合や、小さな信号を高感度レンジで測定する前に実行してください。信号を入力していないのに、GND(グランド)マークとトレースが一致しないとき(画面1)も実行のサインです。画面に現れた操作手順にしたがうことになります。操作例としてテクトロニクス DPO/MSO4000/3000/2000シリーズ・オシロスコープの「自己校正」場合は、すべてのプローブ・ケーブル類をオシロスコープから外して、メニューを一押しするだけです。5~6分ほどで終了します。「アクティブ・プローブ校正」の場合は、プローブをオシロスコープに装着し指示された信号源にプローブ先端を接続した後、メニューを一押しするだけです。こちらも数分で終了します。

  • 室温変化(例:10℃)
  • 高感度測定(例:5mV/div)

自己校正の例

アクティブ・プローブ校正の例

(3)調整される箇所

「自己校正」や「アクティブ・プローブ校正」が終了すると、内部の残留オフセット電圧がキャンセルされ、垂直ゲインの誤差が最小になります。

画面1:調整前

画面2:調整後

(4)「自己校正」と「アクティブ・プローブ校正」をしないと…

オシロスコープやアクティブ・プローブの規格(スペック)はこれらの校正を終了していることが前提になります。これらの校正されていないオシロスコープやアクティブ・プローブはその規格を満たしていない可能性があります。

2.拡張トリガ

(1)まず「トリガ」について、おさらい

オシロスコープで波形を観測するためには、波形が画面上に静止していなければなりません。

この役割を果すのが「トリガ」機能です。トリガは条件を設定しておき、その条件が成立したら波形の取り込みをコントロール(スタート/ストップ)する機能です。

一番シンプルなトリガは「エッジ・トリガ」と呼ばれます。 図1および図2のように、波形との交点を決めるトリガ・レベルを適切に設定することにより、波形を画面上に静止させます。この静止した状態を「トリガがかかる」といいます。

図1 不適切なトリガ・レベル

図2 適切なトリガ・レベル

今回はシンプルなエッジ・トリガをおさらいしましたので、次回はいろいろな種類の拡張トリガの話しです。

著者
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長