九州大学(九大)と国立天文台の両者は、国立天文台 野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて、地球から約2700〜2900光年の距離にある「いっかくじゅう座R2星形成領域」にある「ハブ-フィラメント構造」のガスの動きを調査するため、一酸化炭素の同位体「13CO」および「C18O」のデータから、3つの高密度フィラメントと3つのフィラメント間領域を特定し、ハブと周辺のフィラメントに向かうガスの動きの測定に成功したと、8月5日に共同発表した。

  • いっかくじゅう座R2星形成領域に流れ込む分子ガス分布の模式図。ハブ-フィラメント系における水素分子ガスと運動速度の分布が示されている。高密度フィラメント(緑)およびその周辺の低密度なフィラメント(青)間領域からガスが中央のハブに流れ込んでいると考えられる。(画像作成:ファン・ジヘ、九大大学院 理学府の中村優梨佳大学院生) (出所:九大プレスリリースPDF)

    いっかくじゅう座R2星形成領域に流れ込む分子ガス分布の模式図。ハブ-フィラメント系における水素分子ガスと運動速度の分布が示されている。高密度フィラメント(緑)およびその周辺の低密度なフィラメント(青)間領域からガスが中央のハブに流れ込んでいると考えられる。(画像作成:ファン・ジヘ、九大大学院 理学府の中村優梨佳大学院生) (出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、九大 高等研究院のファン・ジヘ助教、同・アルズマニアン・ドリス准教授、九州共立大学の島尻 芳人教授、九大大学院 理学研究院の町田正博教授、名古屋大学大学院 理学研究科 理学専攻 物理学第二の犬塚修一郎教授、香川大学 教育学部の徳田一起講師、ポルトガル・ポルト大学のM・S・N・クマール博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

恒星は、ガスと塵からなる巨大な分子雲の中で誕生する。分子雲の内部には、星の材料となるガスや塵が細長く集まった「フィラメント」と呼ばれる構造が多数存在する。フィラメントの中には、周囲よりも密度の高い「クランプ」が形成され、さらにその内部に高密度な「コア」が形成されることがある。コアが重力によって収縮すると原始星が誕生し、さらに収縮が進んで中心部の温度や密度が十分に高くなると核融合反応が始まり、主系列星へと進化する。

また、複数のフィラメントが交差・収束する場所には、周囲からガスが集まって高密度な「ハブ」が形成されることがある。ハブは、それ自体がクランプに分類されるほど高密度になる場合もあり、その内部では複数のコアが形成されることがある。こうしたハブでは、複数の星が同時に形成される星団や、大質量星が形成される場合も少なくない。

分子雲ガス内を観測するのは容易ではないため、星の形成に必要な物質を集める過程は完全には解明されていない。これまでの研究では、高密度ガスがフィラメントに沿ってハブに流れ込むことが示されてきたが、その一方で、フィラメント間を満たす低密度ガスの役割はまだよくわかっていなかった。

そこで研究チームは今回、野辺山45m電波望遠鏡を用いて、いっかくじゅう座R2星形成領域内の一酸化炭素の同位体(13COおよびC18O)のデータから、3つの高密度フィラメントと3つのフィラメント間領域を特定し、ハブと周辺のフィラメントに向かうガスの動きを詳細に測定することにした。

一酸化炭素はCOと表記されるが、炭素の安定同位体は2種類(12C、13C)、酸素の同位体は3種類(16O、17O、18O)があるため、同じ一酸化炭素でも6種類の安定したCOが存在し得る。今回は、天然存在比約1%の13Cの一酸化炭素である13COと、2番目に多い(天然存在比約0.2%)18Oの一酸化炭素であるC18Oの2種類の電波が用いられた。通常のCOである12C16Oは宇宙空間に豊富に存在するため、光学的厚みが大きく、分子雲の表面しか観測できないことが使われなかった理由だ。構成する同位体が異なるということは、発信する電波の周波数が異なるということであり、通常のCOでは詳しく調べられない分子雲の奥深くでも、13COやC18Oならより詳しく観測できるのである。

分析の結果、高密度フィラメント内のガスはフィラメント間領域にあるガスよりも速い速度でハブに流れ込むことが確認された。同時に、フィラメント間領域にあるガスの少なくとも30%が、近傍のフィラメントに対して外側から垂直に流入し、その後、ハブに流れ込むことが示された。ハブに流れ込む物質の推定量は、高密度フィラメントのみから流れ込むガスの推定値より約50%増加していることが明らかにされた。

次に、やがて恒星を生み出す可能性があるコアの分布状況の調査が行われた。その結果、ハブ内にあるコア部分はその外側よりも質量が大きいこと、そして高温であることが判明。この観測結果は、ガスが継続的に流入することで、大質量星が形成されやすい高密度環境が作り出されていることを示唆しているとした。

今回の結果により、フィラメント間の低密度ガスは、高密度構造間の領域を埋めるだけの存在ではなく、ハブ-フィラメント系における重要な構成要素であることが明らかになった。高密度フィラメントへ物質を供給し、ハブの成長にも直接的に貢献していることが確認された。

太陽の約8倍以上の大質量星の形成に関しては、太陽などを含む小・中質量星の形成に比べると不明な点が多い。しかし今回の研究により、星のゆりかごが大質量星の形成に必要な物質を集積する仕組みについて、その全体像が解明された。さらに、今回の研究では、宇宙における大規模な物質循環を理解するためには、高密度と低密度の双方の状態を調査する重要性が示された。今後、このハブ -フィラメント系における大質量星形成過程が、宇宙全体にも適用可能かどうか、解明が期待されるとしている。