強い腰痛を抱えていた著者。病院をはしごするも、医者は「若いからそのうち治る」と塩対応。やがて倒れて精密検査をしたところ腰椎骨折と診断されたが、それはありえないと後日立命館大の伊坂教授に指摘され、同大学で再度精密測定をしたら、子どもの頃に骨がうまくくっついていなかったのが原因だった――。

前回までの記事の内容をかいつまむとこんな感じなのだが、ゴタゴタしていたのに反して、診断の結果とられた治療方針は「トレーニングをして、筋肉をつける」というものだった。原因がわかるまでは長かったが、方策はきわめてシンプルだった。

しかし、運動全般が苦手、長距離走はそこそこ行けたものの、身体測定で微妙に目立つ順位を取ったことで同じクラスの陸上部の人からハブられたトラウマから運動を避けて生きてきた著者には、この結果は恐れていたものに他ならない。とはいえ、再び痛みで歩けなくなるのだけは避けたいため、トレーニングをするという苦渋の決断をした。

今回は、「できることなら運動せずに生きていたい」と思う人々に、そう思っている私でもできたトレーニングの数々を共有したい。

「筋トレ」とは違う、つらくないトレーニング

今回トレーニングプログラムを作成してくださったのは、立命館大学の寺田昌史 助教と菅唯志 助教。私のように、腰回りの筋力が弱まっている人向けの、トレーニング装置などを用いず気軽に行えるエクササイズとなっている。呼吸運動に関わる筋肉、特に横隔膜の機能を高めるとともに、体幹のバランスを整えることで腰痛の予防と改善をねらいとして作られている。筋肉を「鍛える」いわゆる筋トレではなく、筋肉がきちんと腰を支えられるように働きをよくしていく、という方が正しいという。

トレーニングに対してとても苦しく、いわゆる「筋トレ」は必ず痛みを伴うものと感じていたが、今回取り組んだものはそうした激しいものはなく、凝り固まったところが気持ちよく伸びるようなものや、リラックスできるようなものばかりだった。

重要ポイント:呼吸法

すべてのエクササイズに共通するのは、"赤ちゃんのような"呼吸。口呼吸が習慣付いている人もいるかもしれないが、鼻で吸って、口で吐くことを意識して行う。ゆっくり鼻から空気を吸って、吸った時間の倍の時間をかけて口で吐く。動画の例では、3秒で吸って、6秒で吐いている。

また、エクササイズの回数は、1~5のエクササイズは1セット4~5回、6と7のエクササイズは左右それぞれ2回ずつ実施する。

動きを習得するには動画を見るのが一番だが、ひとつずつ順に説明していく。

エクササイズ1:赤ちゃん呼吸 (使う筋肉:腹直筋および腹斜筋群(腹横筋))

(1)仰向けに寝て、膝を立て、肋骨をつかむように両手を両脇腹に沿えて呼吸する。

(2)息を吸う時に肋骨を広げ、吐く時に狭めることを意識する。

(3)肋骨に沿えた両手から肋骨の動きを感じることを意識すると良い。 ※肋骨の動きは、360度全方向に広げるように意識する。

エクササイズ2:Observation breathing technique (使う筋肉:腹直筋および腹斜筋群(腹横筋))

(1)椅子に座り、足は床につける。

(2)エクササイズ1と同様に肋骨に手を当て、目を閉じ、肋骨の動きを感じながら呼吸する。

(3)息を吐くのに併せて、前に屈み、吸う時に元に戻ることを繰り返す。

エクササイズ3:Arousal breathing technique (使う筋肉:腹直筋および腹斜筋群(腹横筋))

(1)立ち上がって、両足のくるぶしの間にこぶしが二つ入る程度に軽く開く。

(2)足の指の親指、小指、踵の3点でできるトライアングルをイメージし、その真ん中に重心をかけるように立つ。

(3)胸のやや下で手を組み、息を吐きながら手のひらを下に押し出すように伸ばす ※一定以上の世代にはおとなしめの『キャイーン』の動作というのがイメージしやすいかもしれない。

(4)息を吐ききると同時に伸びきったら、息を吸いながら両手をまっすぐ顎の下へ移動させる。 ※自然と祈りのポーズのようになる。

(5)一度、ゆっくりと息を吐いて、次の吸うタイミングで息にあわせて肘を広げる。 ※息を吐く際には、「ハー」と言いながら吐くと良い。

(6)ゆっくりと息を吐き、肘をくっつける。

エクササイズ4:キャットバック (使う筋肉:多裂筋および脊柱起立筋)

(1)床に四つん這いになり、膝は肩幅と同じくらい間隔をあけて立てる。

(2)手を置く位置は、肩の真下となるようにし、両中指を横に結んだ線が一直線になるようにする。

(3)顔は下を向き、背中は床と並行ではなく、やや弓なりになるよう意識する。

(4)最初に息を吐いたときに背中を天井へ押し返すようなイメージで湾曲させる。

(5)その姿勢のままで背中に空気を送るようなイメージで呼吸する。

エクササイズ5:ボールクランチ (使う筋肉:腹直筋、腹斜筋群(腹横筋)、脊柱起立筋、多裂筋)

(1)ゴム製のボール(またはメデシンボール)を肩甲骨の間に置くようにして、仰向けになる。

(2)脚は伸ばし、手は軽く組んでおなかの上に置く。

(3)一度、深く息を吸い、吐くときに脚を曲げる。

(4)息を深く吸い、吐くときに下腹部を見つめるようにする。

(5)「背骨を積み木と例えて、吸う時に下から順番に倒してきて、吐く時に上から順番に倒していく」イメージでゆっくりと背中の曲げ伸ばしを繰り返す。

エクササイズ6:サイドベンドクレセントーバージョンI― (使う筋肉:腹斜筋群(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋))

(1)足の指の親指、小指、踵の3点でできるトライアングルをイメージし、その真ん中に重心をかけるように立つ。

(2)胸の前で手を重ねる。

(3)息を吸って、吐くときに体を真横に倒していく。倒すのに併せて、横目で天井を見る。

(4)真横に倒せる限界まで倒しきり、その姿勢を10秒間キープする。その際、背骨は回旋させず、首は前に倒さないように注意する。

(5)呼吸のリズムを保ちながら体を元に戻し、次は同様の方法で逆側に倒す。

エクササイズ7:サイドベンドクレセントーバージョンII-

(1)右手を天井に向けてあげる。その際、右手は天井に引っ張られるのに対して、足は床に引っ張られるイメージで行う。

(2)吐くときに中指が左側に引かれるようなイメージで呼吸しながら体を真横に倒す。

(3)逆の手も同様に息を吸う時に脇と肋骨が広がるイメージで行う。

(4)「背骨を積み木に例えて、ひとつずつゆっくりとまっすぐに直立させるイメージで行う。

トレーニングをはじめて1か月、目に見える改善というと分からないが、痛みの再発はなく過ごせている。そして、これまでいかに凝り固まっていて、筋力が弱い状態で生きていたかを自覚できたのはまず一歩前進と感じている。私と同じように腰痛で"死ぬ思い"をしたことのある人、あるいはぼんやりとした腰の痛みを抱えている段階の人の役に立てば幸いである。

犬飼みけ : 公私共にパソコンとお友達な兼業ライター/デザイナー。2016年に強い腰痛でドクターショッピングを繰り返す。その派手な症状が編集部の目に留まり、本来の仕事以外にルポを書くように依頼され今に至る。ライティング領域はデザイン関連中心、テクノロジーまわりも少々。