骨が折れてるわけがない?

日本科学未来館の常設展がリニューアルされるということで、たまたま立命館大学の伊坂教授と面談する機会を持った。伊坂教授はスポーツ健康科学部の学部長を務めていて、専門はスポーツ科学。運動が苦手な自分には遠い分野だと思っていたが、スポーツ選手や愛好家以外の"普通の人"の運動習慣を増やすことが、この展示の目的なので、私のような出不精がターゲットであるという。

日本科学未来館の展示「アクティブでいこう! ものぐさ→アスリート化計画」では、立命館大学など13の大学・企業が構成する団体が開発した技術の一部を公開中

そういえば、伊坂教授は私が勝手に抱いているスポーツマンのイメージと少し違い、終始ニコニコ顔で、あからさまな筋肉がついているわけでもない。ただ、全身から健康そうなオーラが出まくっている。上司は雑談がてら、私の腰痛珍道中のことを伊坂教授に話した。すると伊坂教授はその柔和な笑顔を少し曇らせて、

「それ、骨が折れてるのとは違うと思うんですよ」と言った。

いわく、腰椎骨折をした人はトイレもベッドで済ますほどの絶対安静が普通であるはずだという。私が受けたのは骨粗しょう症の高齢者の治療に近いそうだが、骨粗しょう症と診断を受けたわけではない。今回の医師もまた、「若いから(骨粗しょう症の)心配はない」で診察を締めくくっていたのだった。整形外科の医師は"若さ"を過信しすぎではないだろうか。

骨折でないなら、あの激痛の原因は何だったのか。また原因と医者探しをしなくてはならないのか。そう思ったが、伊坂教授は「骨折でないかどうか確認すべきですし、立命館大学の設備で精密測定をしませんか」、と持ちかけてくれた。さながら天から降りてきた蜘蛛の糸のような申し出に一も二も無く承諾して、私は滋賀県にある立命館大学・びわこキャンパスに向かった。

いざ、びわこ・くさつキャンパスへ

立命館大学 びわこ・くさつキャンパス

それから数週間後、新幹線で移動して、立命館大学 びわこ・くさつキャンパスを訪れた。大学の取材は行ったことがあり、大きな実験装置や計測器を見学したことはあったが、スポーツ健康科学部の設備はランニングマシンなどが置かれ、スポーツジムのような風景は新鮮に映った。

研究などに用いるトレーニング機器が置いてある

体の動きをモーションキャプチャするための空間

しかし、測定を受ける部屋に通されると、そこは一転して病院のような雰囲気に。さっそく、骨密度を測定する二重エネルギーX線吸収測定(DEXA)法を用いた骨密度測定装置で、自分の骨密度を測ってもらうことになった。ここで設置されている機材は、一般の方を対象にした健康増進などを目的とした研究のデータ採取などに用いられているとのこと。骨密度の測定はものの数分で終わり、続いてMRIを撮影することになった。

測定に使った骨密度測定装置(左)とMRI(右)

以前受けたMRIの撮影機器と形は似ていたが、精密な撮影を行っていただいたため、また自分がややMRI慣れしていたためか、時々居眠りをしてしまい、ヘッドホンごしに起こされるという恥ずかしい事態に……。ともあれ、撮影は完了し、整形外科医である篠原靖司 教授から説明を受けた。

骨は折れていなかった! ものの…

一通りの測定を終え、何となく「骨密度が低いのかも」などと推測していた私だが、結果からすると骨密度や筋肉量は平均程度あり、骨粗しょう症ではまったくないとのことだった。それなら一体なぜ…と思っていたところ、篠原教授は2枚のスライドを見せてくれた。

測定で得られた画像。得られたのは予想したものと違う結果だった (測定画像、画像の解説は篠原教授より提供)

指摘された場所(画像左の背骨写真、赤丸の部分)に、白い影が移っている。もしや何か腫瘍でも…?と戦々恐々としていたところ、

「ここにある白いもの、骨なんですよ」

そう言われた。「椎骨癒合不全」、何らかの原因で椎骨(腰の骨)がくっついていない状態で、体を酷使するアスリートにも見られる状態なのだとか。いきなり斜め上の展開にただ驚いてしまった。

篠原教授は、「推測ですが、腰椎に付着している靭帯と、骨表面の丈夫な膜である骨膜が、幼少期に何らかの原因で引っ張られて、骨から剥がれた剥離骨折を起こしたのではないかと思います。幼少期の骨の周りは軟骨でできているため非常に弱いんです。剥がれた軟骨が成長とともに骨化し、小さな細長い楕円の骨片になった可能性が高いですね。足首の周りにはこのような骨片がよく見られますが、こうした例は初めて見ました」と説明してくれた。

通常、椎骨癒合不全は骨の角で起こるらしいが、筆者の背骨は側面が剥がれていた

これは比較例だが私もモロに「一般人」にみられる状態で、多裂筋が脂肪化して働きが悪くなっている

それほど珍しい現象ではないとのことだが、骨や関節の安定性をサポートしている靭帯や骨膜が正しく骨に付いていないため、腰が不安定である可能性が高いこと、またMRIで見る限り、今回痛みが出てしまった側の左多裂筋に、一部変性(脂肪化、繊維化)が見られるという。ここが私の「弱点」なのだという。

「ここを鍛えて、しっかり機能するようなトレーニングをしていただければ良いと思いますよ!」

恐れていたことが起こった。結果的に、トレーニングが必要になってしまったのだった…。デスクワーク一辺倒で運動らしい運動をしてこなかったが、ついに自分の体と向き合うときが来てしまったようだ。次回で最終回、教わったエクササイズについて紹介していきたいと思う。(次回へつづく)

犬飼みけ : 公私共にパソコンとお友達な兼業ライター/デザイナー。2016年に強い腰痛でドクターショッピングを繰り返す。その派手な症状が編集部の目に留まり、本来の仕事以外にルポを書くように依頼され今に至る。ライティング領域はデザイン関連中心、テクノロジーまわりも少々。