国際共同計画「月周回プラットホーム・ゲートウェイ」(以下、ゲートウェイ)は2022年に最初の要素が打ち上げられ、2026年に第1段階の「フェーズ1」が完成する。

ゲートウェイは、人類が地球から宇宙へ旅立つ「国際ハブ空港」の役割を果たし、以後はゲートウェイを経由する様々な探査計画が始まる。ゲートウェイの開発が正式にスタートする2019年から2026年までに関しては、どの国が何をするといった具体的な計画が決定された。

一方、2026年より先の有人月面探査はまだ検討段階のため、どの国が何を作るといったことは決定していない。ただ、有人月面探査を視野に入れた技術開発はフェーズ1の建設期間中に行われるため、大まかなイメージは掴むことができる。2020年代後半から2030年代に行われる、ゲートウェイを中心とした国際宇宙探査の全容を、日本の担当部分を中心に見ていこう。

  • ゲートウェイ

    月軌道プラットフォーム・ゲートウェイ (C)NASA

ゲートウェイの建設

ゲートウェイは2022年から2026年にかけて建設されるので、作業をする宇宙飛行士や生活に必要な物資などをゲートウェイへ届けなければならない。これらの宇宙船はゲートウェイ本体と同様、開発の分担が決まっている。

  • オリオン宇宙船
  • オリオン宇宙船
  • 地球と月の往復に使われるオリオン宇宙船。アポロ宇宙船と似ているが一回り大きい (C)NASA

宇宙飛行士が搭乗するのは、アメリカとヨーロッパ宇宙機関(ESA)が共同開発中のオリオン宇宙船だ。ゲートウェイ建設中は、ゲートウェイの新しい要素(部品)と一緒に超大型ロケット「SLS」で打ち上げられ、ゲートウェイに到着したら組み立て作業を行う。ゲートウェイ完成後は引き続き地球からの往復に利用される。

  • SLS

    超大型ロケットSLSは、オリオン宇宙船とゲートウェイの部品を同時に打ち上げることができる (C)NASA

地球からの物資補給は「こうのとり」が続投

有人宇宙船とは別に、食料や消耗品などを輸送する無人宇宙船も必要だ。こちらは現在国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送に使われているものが改良されて使われる。そのひとつが、日本の「こうのとり」だ。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙ステーション補給機(HTV)「こうのとり」は2009年の1号機から2020年の9号機までの打ち上げが決まっており、2021年からは全面改良型のHTV-Xが就航する。このHTV-XはISS補給用だけでなく、改修してゲートウェイ用にも使えるよう設計されている。地球から38万km離れた月まで飛行できるエンジンを搭載したり、長距離通信可能な通信システムを装備する。

  • a次世代「こうのとり」ことHTV-X

    次世代「こうのとり」、HTV-Xは月軌道への補給ミッションも考慮して設計されている (C)JAXA

日欧加が共同開発する大型月着陸機「ヘラクレス」

またゲートウェイの建設と並行して、月着陸に向けた技術開発が行われる。まずは世界各国で無人着陸機の試験が行われつつあり、日本も2021年に小型月着陸機「SLIM」が日本初の月面着陸を実施、着陸技術を実証する。続いて、水資源があると予想されている月の北極・南極に無人月面車(ローバー)を着陸させる「月極域探査ミッション」が計画されており、これで日本独自の技術で月面を無人で探査し、水資源を調査する技術が確立する。

続いて、本格的な有人月着陸機へ向けた技術実証計画、「ヘラクレス」が予定されている。ヘラクレスは総重量8.5tという大型の無人着陸機で、着陸機本体を日本のJAXAが、ローバーをカナダ宇宙機関(CSA)が開発する。ヘラクレスの新しい点は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が開発する離陸機を備えていることだ。ローバーが採集した月のサンプルを離陸機に収納し、離陸機は月面から上昇してゲートウェイへドッキングし、地球へ持ち帰ることができる。

ここまでが、2026年のゲートウェイ完成までに行うと合意された計画だ。ゲートウェイ完成後の有人月面探査に関しては、誰が(どの国が、あるいは企業が)行うかは決定されていないが、どのような探査を行うかの検討はされている。

  • ヘラクレス
  • ヘラクレス
  • ヘラクレス
  • 大型月着陸機「ヘラクレス」は、着陸機部分をJAXAが開発する。将来は、有人月着陸船として利用できる大型月着陸船をJAXAで開発することを狙う (C)JAXA

ヘラクレスから本格的な月着陸船へ

最初に目指すのは、月面の有人探査だ。月面には氷などの形で水資源があることは間違いなさそうだが、どこにどれくらいあるのかは定かではない。そこで、地球上で油田を探すように、月面で水が豊富にある場所を探し、埋まっている状態を調べて効率的な採掘方法を研究し、まずどこか1箇所を定めて「月面水採掘基地」を建設する。そのための探査だ。

本格的な探査のために、宇宙飛行士や機材を月面へ下ろすための着陸船を開発する。着陸船はヘラクレスと同じように着陸機と離陸機を組み合わせたものだ。月面へ降りる着陸機は重量(燃料を含む)25tあり、離陸機は10tで、合計35t。ヘラクレスの約4倍、アポロ計画の着陸船の約2倍の重量となる。

離陸機は宇宙飛行士が搭乗する部屋を備えており、着陸機を発射台代わりにして月面を離陸、ゲートウェイへ帰還する。ゲートウェイで燃料の補給などを受けた後、地球から送られた新しい着陸機とドッキングして、繰り返し月面へ往復する。なお機材を輸送する貨物機として使用する場合は、離陸機の代わりに10tの機材を搭載できる。

ヘラクレスをベースにするのであれば、着陸機はJAXAが、離陸機はESAが開発を担当する。事実上の「日本初の有人宇宙船」が月で誕生することになるだろうか。

  • ヘラクレス
  • ヘラクレス
  • ヘラクレスをベースとして、大型の月着陸機を開発する。上部に有人離陸機を搭載すれば有人月着陸船に、貨物を搭載すれば無人月着陸船になる。月面車なら2台を搭載可能だ (C)JAXA

月を42日間探検する、月面キャンピングカー

月着陸機が完成すれば、いよいよ月面探査となる。アポロ計画では2名の宇宙飛行士が月面に数日間滞在し、11号・12号・14号では徒歩で、15号・16号・17号では月面車で探査をした。月面車の走行距離は30km程度だ。

しかしGER3で示している探査計画は、アポロとは桁違いだ。4名の宇宙飛行士が地球時間の42日間(月の1.5日)にわたって月面を移動しながら探査をするため、月面車は内部で生活が可能なキャンピングカーとなる。また月面車は故障に備えて2台用意され、通常は2名ずつ分かれて乗車する。

月面車は2台セットで先程の着陸機で月面に下ろされるため、重量は合わせて10t、1台5t以内にする必要がある。最初の月面探査目標地点にまず月面車が下ろされ、次に有人月着陸船が着陸。4名の宇宙飛行士が42日間の探査を終えて帰還すると、月面車は次の探査予定地点まで月面を無人走行して、宇宙飛行士の到着を待つ。走行距離は数千kmになるだろう。

  • 月面車

    42日間の有人走行と、次の探査地点までの無人走行。2030年代の月面車による探査は、アポロ計画とは桁違いのスケールになる (C)JAXA

月面車を誰が開発するかはGER3には明記されていないのだが、これをJAXAとトヨタが開発する方向で検討するというのが、3月12日の発表のひとつだ。つまり、JAXAとトヨタが「手を挙げた」状況だと言えるだろう。

  • トヨタの月面車

    国際有人月面探査に、ついに「世界のトヨタ」が名乗りを挙げた (C)トヨタ

(次回は4月5日に掲載します)