IHS Markit主催の「第38回 ディスプレイ産業フォーラム」において、スマートフォン(スマホ)向けを中心とした中小型パネル市場の動向についてIHS Markitディスプレイ部門シニアディレクタの早瀬宏氏が講演し、2019年の市場は事前予測を覆し、金額、数量ともにプラス成長という結果となったとした。

  • 第38回 ディスプレイ産業フォーラム

    IHS Markit ディスプレイ部門中小型FPD市場調査担当シニアディレクタの早瀬宏氏 (画像提供:IHS Markit)

注:本連載はあくまで2020年1月30日時点のIHSによる予測であり、2月に入り本格的に猛威を振るい始めた新型コロナウイルスの感染拡大による影響は考慮されたものではないことに注意していただきたい。

2019年の中小型パネル市場は金額・数量ともに増加

以下が、早瀬氏の講演内容を要約したものである。

  • 「貿易戦争」にまで悪化すると懸念された米中の貿易摩擦も、5月の米中首脳会談以降徐々に交渉が進展してきている。中小型パネル市場に大きな影響を与えると懸念されたHuaweiに対する制裁も緩和され、中国から米国に輸出されるスマホ(iPhone)に対する関税の上乗せも先送りとなった結果、2019年下半期に縮小が懸念されていたスマホ用パネル需要も盛り返しを見せ、2019年全体ではほぼ前年並みの数量規模となった。
  • 中でも出荷を伸ばしたのがリジッド(折り曲げできない)アクティブマトリックス型の有機EL(AMOLED)である。LTPS TFT-LCDとの価格差が縮まった事で、中国ブランドのスマホメーカーが上位機種に積極的に採用を開始した。それが下期で盛り返したスマホ向けパネル需要の多くを取り込んだ結果、2019年通年においてももっとも出荷数量と金額を伸ばしたパネル品種となった。
  • 中小型アプリケーションの中では、スマートウオッチ用FPDが出荷数を伸ばし、高い成長率を示したほか、モバイルPC用FPDも出荷数量を回復させた。一方、車載モニター用FPDは出荷数量こそ伸び悩んだものの、画面サイズの大型化が出荷金額を押し上げる結果となった。
  • 2019年の中小型パネル市場全体では、AMOLEDで高いシェアを維持するSamsungが出荷金額で他社を引き離した。また、BOEが出荷数量を大きく伸ばしており、Samsungを追いかける態勢に入ったといえる。

注目はフレキシブル有機ELの動向

早瀬氏によると、今後の中小型パネル市場における焦点はフレキシブルAMOLEDが期待通りに市場を拡大していくかどうかだという。

優れた画質特性とデザイン性の自由度の高さから、今後の中小型パネル市場の主役と期待されるフレキシブルAMOLEDだが、一方で他のパネルと比べて高価なこともあり、一般消費者がどの様な反応(需要)を示すかが注目される。

その結果いかんによっては、2020年はフレキシブルAMOLEDの商品展開における大転換点となる可能性が高く、今後の中小型パネル市場全体の方向性を占う上でもその動向に注目する必要がある。

JDIは車載向けトップシェアを守れるのか?{#ID3}

2019年の中小型パネルメーカーシェアは出荷数量トップが全般的に出荷数を伸ばしたBOEがトップ。一方の出荷金額ベースでは、AMOLEDで圧倒的な強みを発揮するSamsungが不動の首位を堅持するものの、出荷数を伸ばしたBOEが2位となり、Samsung追撃の動きを見せている。

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    2019年における中小型FPDメーカーの出荷数量シェア(左)と出荷金額シェア(右)の見通し (出所:IHS Markit)

また、車載機器メーカーによるパネル調達量はTFT-LCDが前年比1%増の1億6271万枚の見込みで、トップのContinentalがシェアを下げる一方で、2位以下のティア1メーカーがシェアを拡大するなど、需要の分散化が進む動きがでてきた。一方のそうした車載機器メーカーへFPDを出荷するパネルメーカーシェアでは、ジャパンディスプレイ(JDI)がかろうじてトップを維持する状況となっている。ただし、シェア自体は下げており、代わって2位グループのLG Display、Tianma、AU Optronics(AUO)がシェアを拡大してきており、JDIが今後もトップシェアを維持できるのかどうかに注目が集まりそうである。

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    2019年の車載機器メーカーによるモニター用FPD(TFT-LCDおよびAMOLEDの合計)の調達数量シェアとFPDメーカーにおける車載モニター用FPDの出荷数量シェア予測 (出所:IHS Markit)

注目すべきはJDIの行方と5Gの浸透具合

早瀬氏は、今後の注目すべき中小型パネル市場の動きとして、JDIの行方と5G対応スマホの価格ならびにその売れ行きを挙げている。特にJDIに関しては、「迷走状態の同社の行方はどうなるのか?」、「迷走しているスポンサー問題はどのように決着するのか?」、「売却が協議されている同社白山工場はどの様な形で存続できるのか?」といったことを注視する必要があるとした。

また、一方の5Gスマホについては、市場(消費者)がどの様な反応を示すのかに注目する必要があるとし、最大20Gbpsともいわれる高速大容量通信がスマホの実使用にどの程度影響を与えるのか、また高周波部品の追加やメモリの増量などのコストアップ要件に対して、セット価格がどの程度反映されるのかといったコストに関する点を指摘しており、特に、Appleが秋頃に投入するであろう5G対応版の次世代iPhoneについて、どのような価格設定と性能を盛り込んでくるのかについて注目する必要があるとする。

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    Apple iPhoneの2019年モデルと5Gへの対応が期待される2020年予想モデルとの比較 (出所:IHS Markit)

また、IHS Markitでスマートフォン市場担当ディレクタを務めるJusy Hong氏は、2019年の世界におけるスマホの出荷台数は13億9100万台、2020年は14億2600万台との予測を示しており、2020年は2018年、2019年と続いたマイナス成長から一転してプラス成長となるとする。中でも台数ベースで27%超を占める中国市場は、2017~2019年の3年連続で前年割れが続いたこともあり、2020年は買い替えサイクルと5Gの普及によるプラス成長となることが期待されるという。Appleについても、2019年の発表モデルの販売が好調であることに加え、2020年春には廉価版を発売してさらなる売り上げ増を狙うのではといった噂や、次世代モデルでの5G対応などへの期待から、販売台数は2019年の1億9300万台から2020年は2億400万台へと増加するとの予測を示しており、その多くが5G対応版に対する期待で、業界全体としても5G対応版のiPhoneの登場により市場に勢いがつくことを期待しているとしている。