直流と交流

ここまで電池のイメージで説明してきたように、時間で電源電圧の大きさが変化しない電源「直流電源」と、回路に流れる電流も変化しない直流回路について考えてきました。

ところが実際のアナログ電子回路では、図2-1-1に示すように電源は「直流電源」のままで構成されますが、電子回路の中を通る信号自体は、時間で信号の大きさとプラス・マイナスの向き(極性)が変化する交流信号です。

ところで家庭の100Vの商用電源は50Hzや60Hzの交流ですが、この商用電源から電源をとる電子機器では、内部で直流に変換され直流電源として内部回路に電源供給されています。

図2-1-1 アナログ電子回路は電源は直流電源だが信号は交流信号(注:本来はこのような回路ではマイナス電源も必要だが、イメージを理解してもらうためにプラス電源のみを表示している)

交流の波形のかたちと大きさを理解しよう

交流は図2-1-2のような波形になっています。この波形はサイン波(正弦波)の形になっています。この図の交流の波形で知っておくべき数値について説明しましょう。 まず大きさです。ここでは中心からサイン波の最大値までの大きさ(ピーク値という)で説明しています。少し難しい話になりますが、電子回路で表記するときの大きさとしては、実効値というものが用いられ、これはピーク値の1/√2(0.707倍)になります。

またこの交流波形の周波数は1kHzになっています。波形の全長が1msで(これを波形の周期という)、その逆数1/1ms = 1kHzが周波数です。

図2-1-2 交流の波形のかたちと大きさ

実際の音声や音楽の信号の波形は複雑だがそこは基本波形で考える

なお上記に示したように、実際の音声や音楽の信号波形は交流ではありますが、図2-1-3に示すように、とても複雑な波形形状になっています。しかし電子回路ではこのような複雑な波形だとしても、基本的な設計上での考え方としては、図2-1-2のようなサイン波をベースにとして考えます。

それはこの複雑な波形を、周波数を横軸として表記した場合、広い周波数に広がっているため各種測定が難しく、単一の周波数成分しか持たないサイン波の周波数を変化させて、広い周波数全体の特性を複数回の測定で求めていく方法をとるためです。

図2-1-3 音声や音楽の信号波形は交流ではあるがとても複雑な波形になっている(ドボルザーク歌劇「ルサルカ」op.114より、ポロネーズ…と書かれても、これでは何だか…)

コンデンサの振る舞い(コイルはあまり使われない)

電子部品として、いちばん基本的かつ回路動作に深く影響を与えるものは、抵抗とコイルとコンデンサです(図2-2-1)。この3つの電子部品のふるまいをよく理解することが重要です。といっても電子回路では、コイルはほとんど使われず(一部、電源回路とか高周波回路で用いられる)、一般的なアナログ電子回路では、抵抗とコンデンサが主に用いられることになります。

抵抗のふるまいは、ここまでオームの法則で見てきたように、「電圧と電流と抵抗量」の関係としてオームの法則でつながっています。つまり抵抗がアナログ電子回路上でふるまう様子はここまでの説明がすべてで、それで理解できるものです。

図2-2-1 電子回路で大事な部品、抵抗とコイルとコンデンサ

コンデンサは抵抗が回路上でふるまう様子とちょっと違う

ところが、コンデンサはオームの法則にしたがって動作はしますが、ここから説明するように、オームの法則を少し越えた特殊な動作をする特徴もあります(図2-2-2)。以下にそのことについて説明していってみましょう。なお最後に参考として、コイルの動作も簡単に説明しますが、コンデンサの動作がわかれば、コイルの動作もほぼ同様にして考えることができますので、ここは重要なポイントだと思って理解してみてください。

図2-2-2 コンデンサはオームの法則にしたがって動作するが、少し越えた特殊な動作をする特徴もある

コンデンサには周波数特性がある

コンデンサは抵抗と同じように電流を妨げる働きがありますが、図2-2-3に示すような構造であることから、直流信号はまったく通しません。これは、コンデンサの2つの電極間が接続されていないことから当然のように理解できると思います。

コンデンサは直流はまったく通しませんが、周波数が上がってくると、周波数に比例して電流を通すようになってきます。オームの法則的にコンデンサに加わる電圧と電流の関係を表してみると、

となります。ここでfはコンデンサに加わる電圧の周波数です。抵抗の大きさに相当する量として表してみると、

となります。つまりポイントとしては「コンデンサは抵抗と同じように電流の流れを妨げるように働くが、周波数に比例して通しやすくなる」ということです。

図2-2-3 コンデンサの基本構造。電極間が接続されていないので、直流信号はまったく通さない

コンデンサでの電圧と電流の時間的うごきの関係

もう1つのコンデンサの特徴は、図2-2-4のように端子に加わる電圧と流れる電流のうごきのタイミングがずれていることです。より電子回路的にこれは「位相」という言葉を用いますが、ここではタイミングと呼びましょう。

コンデンサではこの図のように、電圧に対して電流の変化するタイミングが波形の1周期(波形がある大きさから、次の同じ大きさの状態に戻るまでの時間)の1/4だけ早くなっています。逆に電流を基準として考えてみると、1/4だけ電圧が遅くなっています。

ここまで説明してきた抵抗ではこのようなことは生じません。コンデンサだからこのようなうごきになります。なお周波数が変化しても、この電圧と電流が時間的に1/4ずれる関係は変わりません。コンデンサのこの特徴は覚えておいてください。

図2-2-4 コンデンサは端子に加わる電圧と流れる電流のうごきのタイミングがずれている

著者:石井聡
アナログ・デバイセズ
セントラル・アプリケーションズ
アプリケーション・エンジニア
工学博士 技術士(電気電子部門)